私大ガバナンス改革はなぜ必要なのか 「仕掛け人」が語る“日大事件”と多すぎる“問題点”

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 日本大学の理事長だった田中英寿被告と腹心の理事だった井ノ口忠男被告の事件を巡って、同大学の加藤直人学長(新理事長に就任)が12月10日に事件発覚後初めて記者会見を開いた。加藤学長は「日本大学は田中前理事長と永久に決別し、その影響力を排除します」と宣言したが、事件の背景に理事長の独裁を招いたガバナンス体制の不備があったことは明らかだ。

 折しも、文部科学大臣の下に設置された「学校法人ガバナンス改革会議」が理事会への監督機能の強化などを求める報告書をまとめた。改革の「仕掛け人」とされる塩崎恭久・元厚生労働大臣に学校法人のガバナンスについて問題点を聞いた。【ジャーナリスト/磯山友幸】

ガバナンスが効かない組織になっていた

――日大の背任事件では、大学のガバナンス不全が問題視されています。

塩崎 日大は2018年にもアメフト部の「悪質タックル」問題でガバナンスのあり方が問われました。当時も法人の最高責任者だった田中理事長は、一度も会見を通じた説明責任を果たそうとせず、常務理事や理事の辞任等で済ませました。今回、背任で逮捕、起訴された井ノ口被告はその時に辞任した一人ですが、いつの間にか理事に返り咲き、田中容疑者の側近として力を揮っていました。

 田中被告の逮捕容疑は所得税法違反ですが、ここで重要なのは、今回の事案を、単なる個人の多額な脱税事件、例外的な“個人の”悪質な違法行為事件で済ませてはいけないということです。大学は、公益法人として固定資産税、法人税等多額の免税措置を受けています。ところが、何ら有効な内部チェックや牽制機能が働かないまま理事長の暴走を容易に許してしまった。現行法制下のガバナンスの仕組みこそが問題で、それを定めている私立学校法などを速やかに抜本改正することが不可欠だ、という事です。

 現行法のままでは、どの大学でも「第二、第三の田中理事長」を容易に許すことになりかねません。日大をはじめ、学校法人とその監督をする文科省が行うべきは、田中前理事長個人との永久決別ではなく、速やかにガバナンスを機能させるための抜本的な制度改正、法改正です。

――会見で加藤学長が問題の原因は田中理事長に権限が集中し、理事選任も理事長の意向が働き、理事会が形骸化していた、と語っています。

塩崎 日大に限らず、学校法人では理事長が圧倒的な力を持ち得ることが最大の問題です。日大の場合、問題発覚時点で、理事は36人、評議員は110人以上いたそうですが、いずれも、重要事項を熟議・決定するには人数が多すぎます。相互監視機能も殆ど働いていなかったでしょう。

 また、理事や常務理事、監事の人選、任命は事実上理事長がやってきた、と言われています。日大は職員が3700人以上、教員が専任だけで約3400人いる大企業並みの組織ですが、法人を代表できるのは理事長ひとりという規定になっていたそうです。まったくと言って良いほど、ガバナンスが効かない組織になっていたわけですから、不祥事が繰り返されたのは当然とも言えます。

 問題は、このようにまったく内部統制が利かない経営の仕組みを許す制度である事です。他の学校法人の多くは、法規制を上回る厳しい内部統制を自主的に利かせながら必死の経営を続けています。そうした他の学校法人にとっては大変迷惑な話でしょう。

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