私大ガバナンス改革はなぜ必要なのか 「仕掛け人」が語る“日大事件”と多すぎる“問題点”

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世界の大学ランキングで201位、203位

――理事会の権限が小さくなることで、経営の自由度が落ちるという声もあります。

塩崎 理事会の権限が小さくなるわけではありません。理事会は、学校関係者による選考委員会が選出する評議員に対し、執行部としての考えや教育研究を含む経営方針等を示し、その大所高所からの承認、決定を得ながら、執行責任を果たすのです。これまでと異なり、ガバナンス改革会議の提言に従えば、学校が選んだ多様なステークホルダーで構成される評議員会に説明責任を果たしてもらい、了承を得ていれば、逆に理事会の権限・権威は高まります。

 ガバナンスはブレーキの側面ばかりが強調されがちですが、アクセルを思いっきり踏むためにはブレーキが必要です。今後、学校法人が自立して新たな学校像を追求していくための強い経営力を持つためには、ガバナンスをここで抜本強化、再構築しておく千歳一隅のチャンスだと思います。

――政策通で知られた塩崎さんが、畑違いにも見える大学のあり方にそこまで関心を持たれるのはなぜですか。

塩崎 慶応大学や早稲田大学のような日本では一流の私立大学が、世界の大学ランキング(QS World University Rankings 2022)では、201位、203位でした。東京大学の23位、京都大学の33位と比べ、圧倒的に劣後している理由は何でしょうか。日本人の、そして日本の大学の、本来の力がそのような低位のはずはありません。そのような現状は、資源の有効配分が行われず、折角の潜在力が形になって実現していないだけではないか、と私は強く思います。その問題を解く鍵こそ、最適な資源配分を実現する組織ガバナンスの抜本再構築・強化だと私は思っています。

 これからの日本は、中国や他の新興国を含め、様々な国際競争に打ち勝って行かねばならず、イノベーション立国で勝ち抜いていくしかない。その中心は、大学であり、今回のガバナンス改革は、一丁目一番地の最優先課題と思います。国立大学もガバナンス構造改革が焦眉の急であり、文科省から自立した、独立性の高い、経営戦略に富んだ法人形態を選び直さないといけないと考えています。

 私大、国立大学、両々相まって、新たなイノベーションが次々湧きだす日本の中心的役割を果たしてもらいたいと固く思っています。

――日本の私立大学は文科省の定員管理などでまさに「護送船団」のようになっています。

塩崎 銀行もそうでしたが、護送船団は最も弱いところに合わせ、皆がスローダウンする、という選択です。全体のパイが伸びるときには、まだ通用しましたが、今や、選択と集中です。伸びる先はどんどん伸ばし、少しの支援で伸びるようになるところには支援をし、支援しても伸びることができない先は、退出頂くしかありません。

 これからは少子化が加速するでしょうから、国内だけを見ている大学はもはや生き残ることはできない時代です。世界の流れをしっかり捉える個性ある有能な大学は、世界の英知を結集でき、十分成長できる、と思っています。

 しかし、それには、強固なガバナンスの下で、資源の有効・最適活用可能な経営体のみが生き残る、成長する、と考えるのが自然だと思います。すべての大学が今の規模で、今のまま生き残ることは困難と思います。大学が自立的にユニークな経営をしていく上でも、強力な経営力を持った理事会とそれを監督する有能な評議員会は、ガバナンスの基本として必要で、そのためには、今こそ改革会議報告書の方向性でのガバナンス改革の断行が不可欠だと思います。

磯山友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト、千葉商科大学教授。1962年生れ。早稲田大学政治経済学部卒。87年日本経済新聞社に入社し、大阪証券部、東京証券部、「日経ビジネス」などで記者。その後、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、東京証券部次長、「日経ビジネス」副編集長、編集委員などを務めた。2011年に退社、独立。現著書に『2022年、「働き方」はこうなる』 (PHPビジネス新書)、『国際会計基準戦争 完結編』、『ブランド王国スイスの秘密』(以上、日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)、『破天荒弁護士クボリ伝』(日経BP社)、編著書に『ビジネス弁護士大全』(日経BP社)、『「理」と「情」の狭間――大塚家具から考えるコーポレートガバナンス』(日経BP社)などがある。

デイリー新潮編集部

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