オレは空気が読めない…菅原文太が映画界の重鎮を激怒させた“二大事件”

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ネクタイ一本に二時間

 一方、高倉健はきちんとスーツを着用して、壇上に並んだ。酒は一滴も飲まないので、水が入った升で乾杯したという。

「そのあと、社長は『我が社には凖スターがおる』という言い方をするようになってね。『高倉健には欠点があるが、スターだ。文太は凖スター。高倉健と菅原文太には大いなる差がある』と」

 吉田は、自分が見た高倉と文太の違いについて語った。

「健さんは服装についても堅苦しいほど几帳面で、例えばハワイに行くとき、飛行機の中ではセーター姿だけど、着陸の20分前には席を立って準備をする。ヒゲを剃って、ブルーのワイシャツにネクタイ、スーツに着替えてね。タラップを降りるときにはスターになっている」

 高倉がネクタイ一本を選ぶのに二時間かけたと人伝に聞いたとき、吉田は「健さんならありえる」と思ったという。

「撮影所へ向かっている途中で、どうにも今穿いているズボンが気に入らない、と言って自宅に引き返すような人だから」

 文太はファッションモデルの経歴があり、なんでも着こなせるのだが、服装についてはアメリカンスタイルに固執していた。高倉のように高級ブランドは選ばず、コートやスーツ、ワイシャツなどは伊勢丹でまとめて購入している。また、「おしゃれは目に見えるところに金をかける」が信条で、サングラス以外に小物は身に着けなかった。

「いい度胸をした一代の梟雄」

 さらに、高倉は高級外車のマニアだが、文太は大の自動車嫌い。飛行機やタクシーにも乗りたがらず、移動手段はもっぱら電車である。

「顔を知られているから、周囲が気遣ってハイヤーを用意したこともあったけど、迷惑そうな顔でね、必要ないと断るんだよ」

 文太本人は、いくつかの媒体で「俺は空気が読めないところがある」と語っている。マイペースを通すという意味だろう。新年会でセーターに下駄履き姿は、空気が読めなかったせいかもしれないが、岡田にとってはスターの資質を問う出来事だった。

 ただ、文太に悪気はなく、いくら怒られようと、岡田を「いい度胸をした一代の梟雄」と褒めている。

《松竹ではパッとしなかった俺が東映京都撮影所に初めて足を踏み入れたとき、岡田さんは撮影所長として大きな体躯もあってまさに君臨しているといった雰囲気だった(中略)その混沌と猥雑と喧噪の熱気に満ちた撮影所は、大いに俺の気に入り、こここそ俺の生きる場所だと直感した》(「文藝春秋」2011年8月号)

 岡田が君臨していた東映の雰囲気を気に入り、移籍できた喜びを繰り返し語った。また、岡田が11年に逝去したときには、俳優を代表して弔辞を読んでいる。

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