「松田直樹と向き合う緊張感が懐かしい」 ノンフィクションライター・宇都宮徹壱が明かす素顔

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松田ほど「もう一度会いたい」と思う選手はいない

 問題は、タイミング。最初は2006年のワールドカップ出場メンバーの選から漏れた直後で、その次は16シーズン所属してきた横浜F・マリノスとの契約が切れた年のオフであった。

 取材者としては、まさに戦々恐々。相手が不機嫌だと、実につまらない内容になることも少なくないからだ。ところがいずれのインタビューでも、松田直樹は鷹揚な姿勢で取材に臨み、こちらがドキッとするくらい、実にストレートで歯に衣着せぬ言葉を発し続けた(さすがに言い過ぎたと思ったのか、別れ際の一言が「ちょっと柔らかくしておいてください(笑)」)。

 松田直樹よりも、代表キャップ数が多い選手や、タイトルや記録に恵まれた選手はたくさんいる。より発信力のある選手についてもしかり(当人はSNSアカウントを持っていなかったようだ)。それでも、松田直樹ほど「もういちど会いたい」と思わせるようなフットボーラーを、私は知らない。

 溢れんばかりのサッカー愛とクラブ愛、激しやすくもさっぱりした性格、そして燃え盛る炎のような闘争心。言い古された表現だが、松田直樹はまさに記録ではなく、記憶に残るフットボーラーであった。だからこそ、彼が突如として地上から去った時、多くの人がその喪失感に茫然自失した。

 松田直樹が生きていたら、今年で44歳。自他共に認める「永遠のサッカー少年」は、カテゴリーを下げてでも現役にこだわっていただろう。「めんどくせえ」という理由でSNSは一切やらず、それでも取材に訪れた記者には、いつもの鷹揚さで迎え入れていたことだろう。

 オンライン取材が、当たり前になった今、松田直樹と向き合う心地よい緊張感が、無性に懐かしい。

宇都宮徹壱(うつのみや・てついち)
写真家・ノンフィクションライター。『フットボールの犬』でミズノスポーツライター賞最優秀賞受賞。著書に『蹴日本紀行』など。

デイリー新潮編集部

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