任天堂・中興の祖「山内溥」 かつて「会社に必要なのはソフト体質の人間」と語った意味

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中興の祖・山内溥

 中興の祖は、房治郎の曾孫の溥。山内家、念願の男の子である。5歳のとき、父親の鹿之丞が突如、出奔。母親からも離されて、祖父母の元で跡取りとして育てられた。

 祖父が買い与えた渋谷区松涛の豪邸から早稲田大学に通い、ビリヤードに熱中。贅沢三昧の生活を送った。

 この間、祖父が病に倒れ、早大第二法学部を中退して京都に戻り、家業の丸福(現・任天堂)を継いだ。1949(昭和24)年、22歳の時だ。

 オイルショックで倒産の危機に直面した溥は、脱花札・トランプを目指し、テレビゲームに参入した。危機感の裏返しである。溥は社長に就任して以来、倒産の危機を3度経験したと語っている。

 1983(昭和58)年、ファミコンが子供たちの間で爆発的な人気を呼んだ。テレビに繋げると、ブラウン管の画面を利用して様々なゲームを楽しめる、カセット式のテレビゲーム機である。山内溥は100万台を超す大量生産を決裁。販売価格を1万4800円とした。3万~5万円はする他社のゲーム機の半値以下という破格の値付けだった。

 山内溥の読みは当たった。子供たちに大いに支持された。

資産の半分は現金

 ゲーム機では最後発だったが、「面白いソフトを作る」エンターテインメント会社に特化し、世界のニンテンドーへと大変身を遂げていく。最初のゲーム機へのチャレンジが成功したのは大きかった。

 ゲームのソフトのコストは開発費と人件費だ。

 頭脳(ブレイン)の仕事だから大規模な設備投資を必要としない。ゲームソフトで得た利益は、M&A(企業の合併・買収)などに回すわけでも、配当を大幅に積み増して株主を喜ばせるわけでもない。ひたすら預金に励んだ。

 倒産の危機に瀕した時の惨めさ、借金取りに追い立てられた心理的な後ろめたさが、預金に向かわせた。手元に現金を残していれば、銀行から借金をせず、新しいゲーム機やソフトにトライできた。

 ちなみに2021年3月期決算時点で現預金は9320億円、純資産1兆8746億円。資産の半分がキャッシュであり、もちろん無借金経営だ。

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