任天堂・中興の祖「山内溥」 かつて「会社に必要なのはソフト体質の人間」と語った意味

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遺族のその後

 山内溥・元社長の保有株式が4人の遺族に相続された。任天堂が2013年12月25日、近畿財務局に提出した変更報告書で判明した。

 山内溥は1416万5000株、発行済み株式の10.00%を保有する筆頭株主だったが、それを市場外取引で溥の家族4人が相続した。

 長男・山内克仁が429万1200株(所有割合は3.03%)、次男・山内万丈も429万1200株(同)、長女・荒川陽子が279万1300株(同1.97%)、二女・田中富二子も279万1300株(同)だった。

 長男の山内克仁は任天堂の企画部部長。長女の荒川陽子の夫は元米国任天堂社長の荒川實だ。實については既に書いた。

 任天堂を世界的なゲームメーカーに育てた山内溥は莫大な遺産を遺した。上場株式の評価は、死亡した日からさかのぼって2~3カ月間の平均株価を元に行われるが、亡くなった日の株価(1万1090円)で計算すると遺産は株式だけで1570億円。2007年11月に任天堂株は7万3200円もの高値がついた。上場来の高値である。その時点での資産は1兆円を超えていた。したがって相続税も巨額にならざるを得ない。

二男は投資家に転進

 任天堂は2014年2月4日、市場外取引で950万株(同7.82%)の自社株式を取得した。4名の遺族が相続税の支払いのために相続した任天堂株の67%を売却したためである。この結果、任天堂が保有する自社株式は2329万株、発行済み株式総数に占める割合は16.4%となった。

 長男の山内克仁は2016年に任天堂を退社、株式会社山内の代表取締役に就任。任天堂の旧本社屋・山内任天堂をホテル「かぶやまProject」としてリノベーションし、2021年4月30日に開業した。

 次男の山内万丈は溥の養子で、血縁的には孫にあたる。

 万丈は2020年、遺産運用を目的に「ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス」を立ち上げた。富裕層が資産運用のために設立するファミリーオフィスで、運用資金の規模は1000億円超に上る。

 2021年1月、ジャスダック上場のソフトウエア開発会社、ジャパンシステムの経営陣による買収(MBO)に、万丈の会社が資金を支援したと報じられた。5月に資産管理アプリのマネーツリー(非上場)の第三者割当増資を引き受けるなど、運用の実態の一端が明らかになった。

 溥の莫大な遺産のおかげで、長男の山内克仁はホテルのオーナーに。次男の山内万丈は投資家に転身した。

有森隆(ありもり・たかし)
経済ジャーナリスト。早稲田大学文学部卒。30年間、全国紙で経済記者を務めた。経済・産業界での豊富な人脈を生かし、経済事件などをテーマに精力的な取材・執筆活動を続けている。著書に『日銀エリートの「挫折と転落」――木村剛「天、我に味方せず」』(講談社)、『海外大型M&A 大失敗の内幕』、『社長解任 権力抗争の内幕』、『社長引責 破綻からV字回復の内幕』、『住友銀行暗黒史』(以上、さくら舎)、『実録アングラマネー』、『創業家物語』、『企業舎弟闇の抗争』(講談社+α文庫)、『異端社長の流儀』(だいわ文庫)、『プロ経営者の時代』(千倉書房)などがある。

デイリー新潮編集部

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