「障害を乗り越えた感覚はない」 車いすバスケ「香西宏昭」が語る競技の魅力(小林信也)

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ドイツでプロ契約

 その戦いの中心にいた香西(こうざい)宏昭と話すことができた。香西は予選リーグ突破の関門だった強豪カナダ戦で起死回生の活躍を見せた。前半は19対30と劣勢。だが後半、香西がミドルと3ポイントを続けて決め、チームを生き返らせた。残り5分、逆転の3ポイントを決めたのも香西だ。

 今大会3ポイントシュートの成功数、成功率ともに出場選手中1位。特に成功率は2位の42.9%を圧倒する51.9%だった。

 私の記憶には、リバウンドを奪った鳥海連志から前を行く香西にカウンター・アタックのパスが渡り、これを香西がゴール下からレイアップで決める光景もくっきりと刻まれている。

 ドイツ・ブンデスリーガ1部の強豪RSVランディルに所属する香西はいま、ドイツでリーグ戦を戦っている。ドイツは車いすバスケが盛んで、クラブが約180、選手が約2500人といわれる。リーグはアマチュアだが、中心選手数名はプロ契約をしている。香西もそのひとりだ。強豪のランディルには香西を含め、8人もの外国選手がいる。リモートで話を聞くと、香西は言った。

「私は膝の少し上から両脚がない状態で生まれていますので、これが自分にとって普通であって、障害を乗り越えたという感覚がありません」

 世間は“障害を乗り越えた”という先入観でパラ・アスリートを見がちだ。が、その認識がない香西には、何かを背負ったり克服したりした経験を問われることに「ピンと来ない。むしろコンプレックス」だという。

 香西が直面し、乗り越えてきたのは障害ではなく、アスリートとして直面した壁。2016年リオ大会の悔恨と屈辱を抱えて過ごしたこの5年間こそ、香西のターニングポイントだった。

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