「障害を乗り越えた感覚はない」 車いすバスケ「香西宏昭」が語る競技の魅力(小林信也)

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障害で戦略が決まる

 リオでは9位と惨敗した。「自分の力不足で負けた」とエースは自責の念に苛まれた。これを乗り越える戦いは五輪アスリートと同じ。

「リオでは感情が暴れてコントロールできなかった」

 不動心になりたい。メンタルトレーナーの指導を受け、自分の感情と向き合う訓練を重ねた。「どんなことに心が動いているのか」、克明にメモを取る習慣をつけた。すると、

「だんだんメモの取り方が変わりました。審判に腹を立て、『審判も人間だ』と書いていたのが、『ミスジャッジを予期しておこう』と。怒りのような大きなエネルギーの感情を正しく変換できればいい、と考えるようになりました」

 取材中、障害について真っ直ぐ聞けず遠慮する私を察してか、香西が教えてくれた。

「選手一人ひとりの障害の特徴にこそ戦術、戦略の面白さが隠れているのです。

 腹筋、背筋が使えない障害を持つ選手は、取りやすい位置にパスを出さないとキャッチが難しく、体勢が崩れます。鳥海は体幹が強いのでパスがそれてもキャッチしてくれますが、左手の指が2本なので左にパスを出すとプレーが遅れます。左手に当てて右に持ち替える必要があるからです。こうした特徴を理解したうえで戦術、戦略を細かく組み立てます」

 逆に相手はこうした選手の特徴を把握し、例えば鳥海なら右を徹底的にガードする戦略を取る。

「健常者のバスケでも、あの選手は右手でしかドリブルをしないから右側を抑えるとか、それと同じです」

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。「ナンバー」編集部等を経て独立。『長島茂雄 夢をかなえたホームラン』『高校野球が危ない!』など著書多数。

週刊新潮 2021年11月25日号掲載

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