元公安警察官は見た 偶然を装い隣のパチンコ台に…情報提供してくれる「協力者」の作り方

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人間心理の機微

 勝丸氏は、パチンコ屋に通い始め、すぐにAさんと顔見知りになった。隣同士で打つことも多くなり、よく会話するようになったという。

「まだこの段階で、Aさんにターゲットの名前を口にすることはありません。調査の段階でターゲットが極左暴力集団に所属することをAさんが知らないことはわかっていましたが、それでも唐突にターゲットの話題を持ち出せば、間違いなく怪しまれます」

 Aさんと本当に親しくなるまでには2、3カ月かかったそうだが、こんな手を使ったという。

「私の台がとても調子が良く、Aさんの台がうんともすんとも言わない時、『急に用事ができて、すぐに出なければならなくなった』と言って、わざとAさんに台を譲ったりしました。負けが込んでいるAさんは大喜びでした」

 その次に勝丸氏がパチンコ屋に出かけたのは、1カ月後だった。

「間を空けたのは、上司の指示でした。上司は『Aはおまえに良い印象を持ったはずだ。でも、それだけでおまえに会いたいとは思わないだろう。また会いたいと相手に思わせるには、1カ月くらい顔を合わせない方がいい』と言っていました。人間心理の機微に通じた者の発想ですね」

 1カ月後、勝丸氏はAさんに「ご無沙汰です。名古屋に長期出張に行っていました」と言って、Aさんの隣の台に座った。すると、Aさんは心からうれしそうな顔をしていたという。

「それからパチンコの後、Aさんと近所の居酒屋に行ったり、ひとり暮らしの彼の部屋で家飲みをしたりして、とても親密な関係になりました。そうした中で、Aさんとターゲットの人が勤める会社のことも色々と教えてもらいました。ターゲットのことに触れても不自然に思われなくなるまで、あと、ひと息でした」

 しかし、その矢先のことである。

「上司からオペレーションが変わったとの連絡が入り、私はお役御免となったのです。なぜオペレーションが変わったのか、理由は知らされていません」

 勝丸氏は、Aさんに別れの挨拶をした。

「Aさんに、『転勤が決まって、この店に来るのも今日で最後です。短い間でしたが、色々ありがとうございました』と言った時、寂しそうな顔をしていたのを今でも忘れられません」

 最後まで、勝丸氏が公安警察の人間とは気付かなかったということだろう。

デイリー新潮取材班

2021年11月12日掲載

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