元公安警察官は見た 偶然を装い隣のパチンコ台に…情報提供してくれる「協力者」の作り方

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 日本の公安警察は、アメリカのCIAやFBIのように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を十数年歩き、数年前に退職。この9月『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、警察に情報を提供する「協力者」について聞いた。

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 公安警察は、極左暴力集団から右翼団体、カルト宗教まで、日本の治安を脅かす可能性のある団体を日常的に監視している。そのため、それらの団体や組織の情報を提供してくれる「協力者」を確保することが非常に重要になる。

 1960年代や70年代、学生運動が盛んな時期には、過激派組織に潜入する公安捜査員もいたそうだ。

「万が一、何かあった場合、将来の面倒をみると約束して、身分を隠して送り込まれました」

 と語るのは、勝丸氏。

「ところが、費用対効果が良くなく、なにより見つかったら殺害される可能性があるため、今はこういう危険な潜入捜査は行っていません。その代わりに始めたのが“協力者”をつくることです」

協力者に仕立てる

 刑事ドラマなどでは、よく“情報屋”が登場するが、

「公安では彼らを“協力者”と呼びます。街のチンピラだけでなく、テレビや雑誌などメディアの記者やレポーターにも協力者はいます。長年追っているターゲットの情報を得るためには、協力者の存在は不可欠です」

 警察OBが経営している探偵会社や警備会社も協力者になるという。

「警察OBの探偵会社や警備会社の従業員を、ターゲットがよく通う店にアルバイトとして送り込むこともあります。こうして情報を収集するのです」

 ターゲットが勤める会社の上司や同僚も、有力な協力者になる可能性がある。彼らはターゲットの本当の素性は知らないが、普段の生活ぶりはよく知っている。ターゲットの周辺を調査(基礎調査)する過程で協力者になりそうな人物が浮上した場合、様々な手を駆使して近づくという。

「ある極左暴力集団のメンバーを調査する過程で、彼が勤める会社の同僚のAさんと、非常に親しくしていることがわかりました。Aさんは無類のパチンコ好きで、いつも同じパチンコ屋で打っていました。そこで私はパチンコ屋に足を運びました」

 勝丸氏は、パチンコ屋に入ると、Aさんの隣に座ったという。

「『どうです、この店はよく出ますか?』と話しかけました。私は社交的な性格ではないのですが、仕事とあらばキャラ変ができます。パチンコ大好きサラリーマンになりきって、Aさんとパチンコを打ちながら世間話をしました」

 勝丸氏は、パチンコは学生時代に何回か打ったきりだったが、

「Aさんは自分の台しか見ていませんでした。私の問いかけには、『この店は、土日は釘が厳しい。木曜日の昼間が甘いので、ときどき有給を取って来ている』と話していました」

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