元公安警察官は見た 来日したテロ組織「ヒズボラ」のメンバーを尾行して分かったこと

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 日本の公安警察は、アメリカのCIAやFBIのように華々しくドラマや映画に登場することもなく、その諜報活動は一般にはほとんど知られていない。警視庁に入庁以後、公安畑を十数年歩き、数年前に退職。この9月『警視庁公安部外事課』(光文社)を出版した勝丸円覚氏に、米情報機関の依頼で日本に入国したレバノン人を尾行したケースについて聞いた。

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 公安警察官は、米情報機関や米法執行機関の情報をもとに捜査するケースが結構あるという。

「かれこれ10年ほど前になります。米情報機関から警察庁へ機密連絡が来ました」

 と語るのは、勝丸氏。当時、公安部外事警察に所属していた同氏は、アメリカ大使館内の情報機関や法執行機関の東京支局に出向いて、情報交換をしていた。

「内容は、その日にドイツのルフトハンザ航空で成田に到着するレバノン国籍の男性を、24時間監視して欲しいというものでした」

 米情報機関の本部から警察庁へ直接連絡が来ることはないという。

「なぜかというと、CIAと警察庁の間には、暗号を使う通信システムがないからです。まず米情報機関本部から東京支局に暗号を使った連絡が入り、東京支局の捜査官が警察庁を訪れて情報を提供することになっています。電話による連絡だと盗聴される恐れがあるからです」

テロ組織「ヒズボラ」

 警察庁に届けられたCIAの情報は、警視庁の主に公安部の外事課に振られるという。

「男は成田から入国するので、千葉県警外事課にも協力をあおぎました。ただ警察庁は、CIAからの情報とは決して言いません。内容を聞いて、CIAの要請だと思いました。監視対象の男性は、レバノンにいるシーア派イスラム主義のテロ組織『ヒズボラ(神の党)』のメンバーだったからです」

 ヒズボラはレバノン内戦中の1982年、イスラエル国防軍に抵抗するために生まれた武装組織。イランとシリアの政治的支援を受け、反欧米の立場を取り、イスラエルの殲滅を目的としている。日本や欧州連合、アメリカ、イギリス、オランダ、オーストラリア、カナダ、エジプト、バーレーンから、テロ組織に指定されている。

「私たちは、そのレバノン人がどんな交通手段で移動するかわからないので、車とバイク、徒歩で尾行する要員、それに彼を撮影するための捜査員も投入しました。そのため捜査員は50人以上の大掛かりなものになりました。もっとも、こういうケースで日本にいるCIAが捜査に加わることはありません。アメリカ人が動けば目立つからです」

 レバノン人は、成田空港で迎えの車に乗ったという。

「50人以上も捜査員が追いかけるわけですから、色んな作戦が立てられます。そこでまず高速道路には千葉方面、東京方面、埼玉方面のパーキングエリアなどにそれぞれ何カ所も先回りして車やバイクを待機させました」

 レバノン人が乗った車が高速に乗ってしまえば、ずっと尾行を続ける必要はないという。

「次の高速の出口まで降りられないので尾行はやめます。そして先回りしている捜査員に、『あと10分後にそちらに行く』などと無線連絡し、車種や色、ナンバーを伝えるのです。連絡を受けた捜査員は、レバノン人が乗った車が来るすこし前に車を出し、一番左の車線をゆっくりと走らせます。そして車が来たら抜かせ、どの方面へ向ったか確認後、無線でさらに先で待っている捜査員に連絡するのです。レバノン人の乗った車の後ろにずっとついていると、すぐ尾行だとわかってしまうので、先で待ち伏せするというわけです」

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