東大大学院教授がデジタル教科書に警鐘 「覚えやすいのはスマホより紙」

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マルチタスクが減少する危険性

 2000年代に入ってからノートパソコンやスマホ、タブレットが急速に普及していく中で、酒井教授は、東京大学の学生にも大きな変化を感じてきたという。なんと講義中に「メモを取ろうとしない学生」が増えているそうなのだ。

「教室の前の方で熱心に聞いている学生なのに、その机の上にはノートや筆記具が載っていないということが多々あります。コロナ禍でオンライン授業が増えましたが、ウェブカメラでは学生の手元は映りませんから、その状態が放置されているのではないかと心配しています。実はそうした『メモを取らない』という習慣は、小学生の頃からの指導に原因がありそうです。ある一定の世代までは、授業中に先生の話を聞きながらノートを取り、同時に板書も書き写すという『マルチタスク』が当たり前でした。ところが最近は、集中力が分散するという誤った理由で『シングルタスク』が推奨されているそうです。先生が話す時は聞くことにのみ集中させ、その後で生徒にノートを取らせるのです」

 そうした教育方針に酒井教授は異論を唱える。

「強制的に生徒を一つのことへ集中させたために、失われるものもあります。日常生活ではマルチタスクも必要です。例えば車の運転では、標識や信号機を見ながらも、道路状況だけでなく、周囲の歩行者などにも注意を払わないといけません。そうした状況を確認せず、シングルタスクによる自分の見込みだけの運転は極めて危険なのです。学習の場などでは、『話を聞きながらメモを取る』というマルチタスクが基本です。話を聞くだけでは、頭にほとんど残らないでしょうし、後で確かめようもないのです。今後、デジタル教科書が導入され、タブレット端末で完結してしまうと、ノートやメモを取れない人が続出することでしょう」

 政府・文科省は小中学校の教科書の内容をタブレット端末などで学べるデジタル教科書の導入を進めている。今年度からは全国の4割にあたる1万2千ほどの国公私立小中学校でデジタル教科書を使用した実証研究が行われている。そこで使いやすさや規格の問題、健康面への影響を検証していく予定で、来年度からは実証研究の対象をすべての小中学校に拡大すべく取り組んでいるところ。前述の通り、本格的な導入は24年度からだが、その影響について、酒井教授は次のように警鐘を鳴らす。

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