コロナ感染者急減でも感染症対策の見直しは道半ば 「岸田4本柱」より先にやるべきことは

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デルタ株以降は……

 10月4日、米食品医薬品局(FDA)元長官のゴットリーブ氏は、「夏季のデルタ株の拡大が米国における最後の大規模感染となる可能性が高い」との見解を示した。アストラゼネカワクチンの共同開発者であるオックスフォード大学のセーラ・ギルバード教授も9月下旬に、「感染力が強いデルタ株以上に致命的な変異株が登場する可能性はない」との認識を示していた。新型コロナウイルスが人体の免疫を避けるためにスパイクタンパク質を変えすぎると、これによりかえって人体の細胞に侵入することができなくなる。「ウイルスは抗体を回避しながら感染力が強くなる」との心配は、杞憂に終わる可能性が出てきた。

 思い起こせば、100年前のスペイン風邪のパンデミックも3年ほどで収束している。当時はウイルスが病気の原因であることすらわかっておらず、有効な手立てはマスク着用ぐらいしかなかった。

 パンデミックが早期に収束すること自体は望ましいが、懸念もある。第5波でようやく動き出した日本の感染症対策の見直しが道半ばで終わってしまいかねないからだ。

 新政権は新型コロナ対策に関し「岸田4本柱」を掲げている。(1)医療難民ゼロ、(2)ステイホーム可能な経済対策、(3)ワクチンパスポートの活用及び検査の無料化拡充、(4)感染症有事対応の抜本的強化だ。

新興感染症用の病床不足が起因

 感染者数が欧米諸国に比べて格段に少なかったのにもかかわらず、行動規制に追い込まれたのは新興感染症用の病床不足に起因している。民間中心の医療体制が有事にうまく機能しないことが露呈してしまったが、その解決の道筋は立っていない。

 感染症有事対策の目玉として健康危機管理庁の設置が主張されているが、そのモデルとされる米国疾病予防管理センター(CDC)は新型コロナウイルスの緊急時対応に失敗したとの批判を受けている。イメージ先行で「箱物」を作る前に、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」と「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」の間で生じている国と都道府県間の指揮命令系統の二元化を統一することのほうが先決だ。

 パンデミック時に地域の感染対策を主導できる感染症専門医の拡充や、国内の製薬企業が平時でも新規のワクチンや治療薬を開発できる能力を維持できる仕組みを構築することも急務だろう。

 2009年の新型インフルエンザの際、早期に感染が収束してしまったために改革の機運が立ち消えとなってしまった。「二の舞」を繰り返さないためには、パンデミックが仮に早期に収束したとしても、次なるパンデミックの襲来に備えて、政府は感染症対策の強化を完遂すべきだ。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮取材班編集

2021年10月12日掲載

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