地域を活性化させる「質的価値」を創造する――野並 晃(日本青年会議所会頭)【佐藤優の頂上対決】

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最後の学び舎JC

佐藤 横浜JCの理事長時代には、どんな活動をされたのですか。

野並 横浜には横浜の課題がありました。現在、横浜の人口はまだ増えていますが、私が理事長を務めた当時は、2019年をピークに人口がどんどん減っていくといわれていました。横浜は、ビルが立ち並び、会社の数も多いように見えるのですが、基本的に支社の街です。

佐藤 それは法人税収入が少ないということですね。

野並 その通りです。そこへ人口減となれば、税収は下がる一方です。だから街づくりに必要な予算がどんどん少なくなる。それは街の衰退につながります。その対策の一つは、交流人口を増やすことです。例えば、MICE(Meeting, Incentive travel, Conference/Convention, Exhibition=会議、研修旅行、大会、展示会)が重要になってくる。そのためには、まずキャッシュレスの普及だということで、地元の商店街にQR決済を導入いただくよう提案して回りました。

佐藤 そうしたインフラが整えば、観光客もお金を落としますからね。反応はいかがでしたか。

野並 当時はまだまだ、という感じでしたね。ただコロナで非接触が進み、キャッシュレス決済が主流になってきましたから、「そういえば、あの時JCがキャッシュレスを推進していたけど、やっぱり必要だったんだ」と思っていただければ、うれしいです。

佐藤 そうなれば、その後のJCの活動の受け入れられ方も変わってきますからね。

野並 もう一つはナイトタイムエコノミーを充実させることです。横浜は日本の玄関口です。横浜港はあるし、羽田空港も近い。訪問客は年間約3500万人いますが、宿泊者は500万人程度です。

佐藤 東京からだと、横浜に泊まるということはないですからね。

野並 そう、日帰りなのです。泊まらない分だけ、使うお金が少ない。ですからナイトタイムエコノミーの活性化を打ち出して活動を行いました。

佐藤 横浜といえば、先の市長選挙ではIR(統合型リゾート施設)反対を掲げる山中竹春氏が当選しましたね。

野並 横浜JCは、ずっとIRを推進してきただけに残念なことでしたが、370万人の市民の決断ということですから、それは尊重しなければなりません。ただ人口減は確実に起きますから、住民税以外を増やしていく施策がないと、横浜という街は地盤沈下してしまいます。

佐藤 IRはカジノばかりが注目されましたが、それだけではないですからね。もっともIRに限らず、他にもやり方はあります。

野並 その通りで、手法はたくさんあると思います。カジノはともかく、横浜の将来を考えれば、5年、10年後にIR的な視点が必要になる。その種まきはできたかなとは思います。

佐藤 そうした将来を考える視点を得られるのがJCのよさです。

野並 私は、JCによって国家のことや地域のこと、あるいは世界が抱える課題について、純粋に考える時間を与えられている気がします。この歳(とし)でそうした時間が持てるのは、JCという組織だけかもしれない。「JCは人生最後の学び舎(や)だ」と表現される方もいますが、その通りだと思います。

佐藤 みなさん、会議を幾度も開き、その活動に一所懸命に汗をかいている。その膨大な時間と労力、持ち出しの費用を合算すると、経済的には凄まじい額になりますよ。それはJC以外の人には見えていない。その中で外部の人を巻き込みつつ、一つ一つ成果を積み上げていくことは、リーダーになる人たちにとって、非常にいい経験になるでしょうね。

野並 はい。40歳を超えた時、このJCで培った経験をどう生かすかを、当然考えることになります。JCで得るものは、社会問題の解決という大きなテーマに取り組む基礎にもなりますが、自分の地域で、自分の本業で物事を動かしていく糧にもなります。この組織は、人それぞれに使いようがあるところが面白い。ですから私も、この一瞬一瞬を大切にして取り組んでいきたいと思っています。

野並 晃(のなみあきら) 日本青年会議所会頭
1981年神奈川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。同大学院経営管理研究科修了。2004年キリンビール入社、3年で退職し07年崎陽軒入社、16年より専務取締役を務める。一方、13年に横浜青年会議所入会。横浜開港祭室室長、副理事長を経て19年に理事長。20年には日本青年会議所の副会頭となり、今年第70代会頭に就任した。

週刊新潮 2021年10月7日号掲載

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