地域を活性化させる「質的価値」を創造する――野並 晃(日本青年会議所会頭)【佐藤優の頂上対決】

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価値を再発見する

佐藤 JCの活動は基本的に手弁当というか、ボランティアです。しかも単年度主義で、任期の1年間で目に見える結果を出さなければなりませんから、その点は大変でしょう。

野並 行政でも企業でも単年度の予算で動いていることを考えれば、同じような時間の流れですが、普通なら一つの部署に最低でも2、3年はいるでしょうから、中期の計画ができますよね。それがJCではできません。ただその1年で動くというスピード感は、JCだからこそ味わえるもので、非常に濃密な時間になります。それだから一所懸命に打ち込めるという面があります。

佐藤 今年の野並JCはどんな方針で活動を行っているのですか。

野並 実は今年度は、あえて日本JCから明確な旗を立てていないのです。いまはダイバーシティ(多様性)やインクルージョン(包摂)といった言葉がさまざまなところで用いられるように、一つの価値観で物ごとが進んでいく時代ではなくなっています。ですから、全国の組織を一つの方針で同じ方向に向かわせる仕組みにしませんでした。

佐藤 なるほど、それも一つのカラーですね。ただその場合でも、野並JCはまとめ役として活動を統合調整していく立場にあります。活動としてはどこに力点を置かれているのでしょうか。

野並 一律の統一方針がない中で、取り組むテーマを事業別に分け、35の会議、委員会を作りました。その一つに「質的価値創造会議」があります。この「質的価値」は私が発信していきたいと考えていたものです。

佐藤 それには、どんな意味が込められているのですか。

野並 「質」の反対語である「量」なら、客観的かつ明確な基準でモノを判断できます。でも質はそんな単純なものではありませんよね。質についてはそれぞれ価値観が反映されますから、質を中心に考えれば多様性が担保できます。

佐藤 なるほど。

野並 日本JCは、各地域からの代表が集まっていますが、その地方ごとに固有の文化や歴史があり、そこに多様な価値観が育まれています。その価値観にいろいろな方向から光を当てることで、地域の根っこにあるものを再発見していきたいんです。その思いが「質的価値」という言葉に込められています。

佐藤 例えば、どんな活動があるのですか。

野並 一例を挙げると、深海魚ですね。深海魚は漁師さんからしてみれば、獲れても売り物にならない魚ですよね。

佐藤 捨てるしかないでしょうし、実際、そうしていますよね。

野並 ただその深海魚を価値あるものと思っている人たちもいるわけです。例えば学校や博物館には、標本としてのニーズがある。

佐藤 ダイオウイカやリュウグウノツカイのような生き物ですね。

野並 はい。ゴミのように扱われていた深海魚を必要な方のところへ届けるようにする。つまりその価値を再発見して、アップサイクル(創造的再利用)する。その活動に私たちは光を当てて応援していく。

佐藤 これはどこの地域ですか。

野並 静岡県の沼津です。

佐藤 確かに静岡県は深海魚が多いですよね。駿河湾は、フィリピン海プレートとユーラシアプレートの境界ですから、海に入ると急に深くなる。

野並 同じように、沖縄ではある割合でサメが獲れるんですね。漁師にとっては困りものですが、そのサメを、サメ皮を活用した事業を行う業者に繋いでいる人がいます。そうしたところに注目する。

佐藤 新しい価値を見つけることで地域を活性化させていく。

野並 価値はゼロから作る必要はありません。すでに地域の根っこの部分にあります。私たちは、いわば価値の原石を見つけだして、それにいまの文脈から光を与えるのです。

佐藤 つまりは地域の中で頑張っている人を掘り起こすわけですね。

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