河野太郎氏の敗因は「言葉の軽さ」? 安倍元総理の著書と見比べてみると

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 29日に行われた自民党総裁選投開票の結果、岸田文雄が新総裁に選出された。予想のできない展開となった今回の総裁選だったが、日本大学の先崎彰容教授はどのように見たのか。

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 私は「言葉」に注目して総裁選を見ていました。どの候補者の言葉にも、国民に訴えかけるリアリティ、生活に密着した「匂い」が欠けていたように思います。特に言葉が軽薄だったのが、河野太郎氏です。とにかく言葉に「温もり」がありません。

 河野氏は今年『日本を前に進める』(PHP新書)という本を出しました。しかしこの本を読んでも、一体この国をどこに引っ張っていきたいのかが分かりません。彼の言葉からは、30年後の将来像、この国をどうしたいのかというビジョンが見えてこない。前に進めると言いますが、その「前」とは一体、どこへ向いているのか。闇雲に前進しても意味がない。

 例えば、安倍晋三前総理の『美しい国へ』(文春新書)では、最初に自分の経験を振り返りながら、それとともにこの国の戦後政治史と、“保守とは何か”という思想を語っています。一方、河野氏の本では、そのような原体験とともに思想が語られることはありません。アメリカ留学やポーランド留学など、学生時代を振り返ってはいるものの、単に出来事を羅列しているだけです。

 この本の中では特に、災害を巡る河野氏の主張に驚かされました。

〈公助や共助による個人の住宅再建や地域の復興には限界があります。災害発生後、速やかに生活を再建するためには、個人・世帯単位においても保険による経済的な「備え」をしておくことが極めて重要です〉

 つまり、「保険に入りましょう」ということです。まるで親戚から結婚に際してアドバイスを受けているかのようです。

 こういった本は、往々にしてゴーストライターが書いているのかもしれませんが、きちんとした文体を持ったゴーストライターを用意する人脈もないということが、河野氏という政治家の軽さを表しています。SNSの時代は「刺激」が総裁の当落さえ左右する時代ですが、それを批判的に見る視点も必ず必要だと思います。

週刊新潮 2021年10月7日号掲載

特集「謀略の人間喜劇 『河野太郎』『岸田文雄』を踊らせた『安倍前総理』」より

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