韓国に民主主義が根付かないのはなぜか 儒教説、傲慢説、米国離れ説も

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拷問がなくなれば民主化?

――では今、「言論法改悪」に関し国民的な反対運動が起きている?

鈴置:それが、まったく起きていないのです。それどころか、世論調査を見ると「言論仲裁法の改定に賛成」と「反対」はほぼ半々。敢えて言えば「やや賛成の方が多い」調査結果が目立ちます。

――なぜでしょうか?

鈴置:韓国人のメディア不信は日本人と同様かそれ以上で、「記者(キジャ)」に「ごみ(スレギ)」を足した「キレギ」という表現がネット上で定着しています。日本語の「マスゴミ」に相当します。

 「キレギ」を憎む人々は、いい加減なことを書き散らすメディアは天文学的な罰金で懲らしめてやればいい、と考えるのです。

――でも、言論の自由は民主主義の基本でしょう。

鈴置:今になって考えると、1987年の「民主化」は本当の民主化だったのか、首を傾げるのです。原動力となったのは、西欧型の民主主義を実現したいとの熱望ではなかった。政府が学生をいとも簡単に殺し、たわいもない政府批判さえ言うに言えない、陰鬱な空気への反発だったと思います。

 現在は「もう、拷問も検閲もなくなった。喫茶店で政治を語る時に後ろを振り返る必要もない。これで十分ではないか。『キレギ』の報道の自由など、自分とは関係ない」と考える人が多いのでしょう。

儒教と相性の悪い民主主義

――民主主義の利点は拷問や検閲がないだけではありません。

鈴置:確かに、成熟した民主主義の最大の長所は、法治を通じた「社会の安定性」です。政権が変わっても前の政治指導者は監獄に放り込まれないし、自分の名誉や地位が突然に侵されることもない――。

 しかし、こうした「安定性」は民主化後の韓国にもたらされなかった。そのため「安定性」を保障する、司法の中立や報道の自由がいかに重要かに韓国人は気付かないのだと思います。

 循環論法的になりますが、成熟した民主主義を知らない社会には、それを求める声は起きず、それに進むこともないのです。

――身も蓋もない意見ですね。

鈴置:欧米の韓国専門家の間でも「韓国の民主主義の崩壊」が話題になっています。「同じ日本の植民地だった台湾の民主主義が着実に進化しているのに、韓国で後退するのはなぜか」との議論も始まりました。

――結論は?

鈴置:まだ、出ていませんが、まずは「儒教説」が語られます。日本が統治するまで、韓国人は法治を軽視する儒教をベースに国を運営してきた。その発想が現在でも根強いため、法律をベースに運営される成熟した民主主義には到達しないのだ――との見方です。

 一方、台湾は中国大陸の歴代王朝の支配が届いていなかった。この島で、国家らしい国家が運営されたのは日本の植民地になってからであり、儒教が入り込む余地はなかった――と説明されます。

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