韓国に民主主義が根付かないのはなぜか 儒教説、傲慢説、米国離れ説も

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「民主化も産業化も自力で達成」

「傲慢・謙虚説」というのもあります。韓国人は「高度の民主化を実現した」と信じ込み、外の世界に広がる成熟した民主主義の存在に気付きもしない。一方、台湾は謙虚に自らを見つめ、民主主義の成熟に努めている、との分析です。

 この見方も説得力があります。ネットにしろ新聞にしろ、韓国の言論空間では「我が国の民主主義の水準は日本を大きく超えた」「我が国は民主化も産業化も自力で成功した世界で唯一の国だ」といった言説が飛び交っているからです。

 「米国離れ説」もあります。1987年の民主化は、全斗煥(チョン・ドファン)政権が米国の顔色を見た部分が大きかった。「ソウルの春」をつぶし、クーデターで権力を握った全斗煥政権は米国の受けが相当に悪く、民主化運動をあれ以上に弾圧したら米国から見はなされかねなかった。そこで不本意ながら民主化を宣言したのです。

 ところが今や、韓国人の多くは「米中を天秤にとって操る国力を備えた」と考えている。もう、民主化の後退による「見捨てられ」を心配する必要もないわけです。

 その点、1979年に米国との国交を断たれていた台湾は、1980年代に到来した「アジア民主化の時代」に米国の顔色を気にしすぎることもなければ、国力が増進した後も「米中間の天秤」を妄想することもありませんでした。

「従中」を加速する民主主義の後退

――韓国の民主主義が外交と関連する、との見方は興味深い。

鈴置:今後の展開を読む際、それが極めて重要になります。韓国人が西欧型の成熟した民主主義を望まない以上、中国の台頭を恐れる心情も生まれません。

 日米豪印の人々が、事実上の対中包囲網、QUADを構成した心情と比べると明らかです。「中国のような反民主的な国が世界を主導するようになっては大変だ」というのが4カ国のコンセンサスです。

 韓国人が西欧型の民主主義を目指しているのなら、QUADに躊躇なく参加しているはずです。中国から圧力があろうと、自分の価値観を守るために必要なコストだからです。

 日本と異なり、韓国が「離米従中」するのは地理的にも歴史的にも中国と近いという地政学的な原因に留まらない。「日本や欧米とはもはや、価値観が異なる」ことにも起因するのです。

 今後、韓国の民主主義が後退するほどに、中国への傾斜も増すでしょう。この意味でも、我々は韓国の民主主義の行方をじっくりと観察する必要があるのです。

「日韓は運命共同体」と語る首相候補

――「異なる道を歩む日韓」との見方は今や常識と思いますが……。

鈴置:「日韓は利益や価値観を共有する。だから手を携えよう」と考える日本人がいまだにいます。例えば、自民党の総裁選に出馬した野田聖子幹事長代行も2021年2月、朝鮮日報のインタビューに答え「運命共同体にならねばならない」と語っています。

韓日は運命共同体…難しい状況をともに克服」(2月18日、韓国語版)から発言を翻訳します。

・韓国と日本は大国ではありません。米国や中国など大きな国に取り囲まれている状況を克服するために、運命共同体であるとの考えを持つ必要があります。

 日本の首相になろうという人も、韓国に関してはこんな認識なのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮取材班編集

2021年9月27日掲載

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