首位オリックスの原動力「ラオウ杉本」 3年で才能を開花させたトレーナーが明かすトレーニング法

スポーツ 野球

  • ブックマーク

Advertisement

 25年ぶりのリーグ優勝が視野に入るオリックスで、首位を走る原動力の一人が“ラオウ”こと杉本裕太郎だ。ここまで主に4番として90試合に出場し、リーグ4位タイの打率.308、同3位の21本塁打、同3位の64打点を記録している(今季の成績は8月30日時点、以下同)。

背番号99が見えるほど

 昨季までのプロ5年間に出場した76試合で打率.224、9本塁打だった杉本はなぜ、30歳になった今季飛躍することができたのだろうか。

「去年から、詰まった当たりでもヒットになり始めました。ミスショットをいかにヒットゾーンに持っていけるかはバッターにとって結構大事な部分です。うまい選手は自然とそれができていますよね」

 そう話したのは、広島で「Mac’s Trainer Room」を運営するトレーナーの高島誠氏だ。JR西日本で同期だった高野圭佑(元ロッテ、阪神で、現在は台湾球界でプレー)が高島氏と個人契約する縁で、杉本も3年前から通うようになった。

 杉本は2015年、ドラフト10位でオリックスに入団。同年のドラフトで指名された88人のうち87番目の指名だった。

 190cm、104kgの大型打者はツボに入れば白球をピンポン球のように弾き返す一方、確率の低さが課題だった。そのため1軍で出番がなかなか回ってこず、2軍での成績も<2016年:48試合、打率.226、3本塁打><2017年:88試合、打率.269、8本塁打><2018年:47試合、打率.229、3本塁打>と低調だった。

 プロで3年間を終えた時点で27歳。契約更新で翌シーズンにチャンスがつながった2018年オフ、杉本は高島氏の門をたたいた。

「まずは何ができて、何ができないかの見極めをしました。基本的には外のスライダーを見極めることが最初の課題でしたね」

 当時の杉本は遠くへ飛ばそうとするあまり、上半身を大きくひねり、左肩が内側に入りすぎていた。投手方向からのテレビカメラで写すと、背番号99が見えるほどだった。

「体をひねるとバットが出づらくなり、スイングのスタートがしにくくなります。バットの軌道が外回りになり、インコースに対応できない。だからインコースを気にしすぎて、外角が見極められなくなっていました」

 ちょうど当時の球界では、ピッチトンネルの重要性が強調され始めた頃だった。打者から7.2メートルほどの場所にあるとされる“仮想空間”のことで、この地点までに打者は球種やコースを判断する必要があると言われる。逆に投手はピッチトンネルより打者寄りで変化させることで、打ち取る確率を高められる。外角のスライダーはリリースされた直後、ストレートと同じような軌道に見えるため、杉本はボールになる球を振らされていた。

 身体動作的には、「胸郭が硬い」という課題を抱えていた。上半身がスムーズに回転しにくいため打撃動作で間をとれなくなり、頭がブレやすくなる。この点も、外に逃げていくスライダーを見極められない一因だった。

 そこで胸郭を柔らかくするトレーニングに取り組んで臨んだ2019年。1軍では18試合で打率.157、4本塁打に終わった一方、2軍では78試合で打率.277、14本塁打と成果が出た。

“詰まってもヒットになる”打球角度を模索

 同年オフ、次のステップとして見直したのが打球角度だった。高島氏が振り返る。

「いくら飛ばせるフィジカルを持っていても、打率2割に届かないような成績ではなかなかチャンスを得られません。だから一旦、打球角度を下げてみようとなりました」

 近年、打撃で重要なポイントの一つに「バレルゾーン」がある。長打になりやすい打球のことで、打球速度が約158キロ以上なら26~30度、約187キロ以上なら8~50度で発射された打球は飛びやすいことがテクノロジーの導入によって判明した。メジャーリーグで重要性が説かれ始め、日本でも浸透してきている。

 ただし、あくまで一定以上の打球速度があっての話だ。これが基準に届かないと、単なるポップフライに終わってしまう。

 杉本と高島氏はバレルゾーンの考え方を参考にし、“詰まってもヒットになる”打球角度を模索した。ラプソードヒッティングというテクノロジーで計測しながら、ヒット性の打球になりやすい入射角を追い求めた。

 同時にバットも見直した。以前は飛距離を求め、ヘッドが効きやすいタイプ=ヘッド寄りに重心があるバットを使っていた。芯でしっかり捉えれば長打にしやすい反面、操作性が難しいというデメリットがある。言い換えれば、打率を上げるのには難しいバットだった。

 そこで異なるタイプを試した。高島氏のジムへ自主トレに来ていた羽月隆太郎(広島)のバットを借りると、ヒット性の当たりが多くなった。167cm、67kgの羽月は巧みなバットコントロールで多くの安打を狙うタイプで、杉本より操作しやすく設計されたバットを使っていた。「そもそもフィジカルで飛ばせるバッターだから、バットで飛ばさなくてもいいよね」。高島氏は杉本との会話をそう振り返った。

 2020年は前半戦から2軍での日々が続いたが、シーズン途中で西村徳文監督が退任すると、後を引き継いだ中島聡監督代行からチャンスを与えられる。8月21日に同年初の昇格を果たすと、41試合で打率.268とプロ入り5年目でキャリアハイの数字を残した。

次ページ:ボールに力を伝える骨盤の動き

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。