デルタ株「空気感染」の防ぎ方 感染した場合の備蓄品リスト、要介護者がいる場合の対策は

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 ウイルス量が従来株の千倍というから、感染力が強くないわけがない。猛威を振るうデルタ株は子どもにも広がり、子どもから大人にうつる。脅威には違いないが、しかし、敵を知れば対策の立てようはある。命を守るための防御術をもれなく紹介したい。

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家庭に持ち込まないために

 敵を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず――。孫子の兵法の一節を、いまこそ肝に銘じたほうがいい。敵はこの場合、全国で新型コロナウイルスの感染者に占める割合が、9割を超えたとされるデルタ株である。

 東京都の新規感染者数は、5千人を超える日が多くなった。また、子どもへの感染が増え、子どもが大人にうつす例も目立つ。恐怖が先に立つのも無理はないが、そんな敵にも強みがあれば弱みもある。

 まずはこの変異株を俯瞰し、敵の性質を理解することだ。冷静な視座を失わなければ、デルタ株も乗り越えられよう。最初に、デルタ株の感染力が強いわけを、理解しておきたい。

 現在、多いのは家庭内感染で約65%、続いて職場感染が約15%というが、なぜ家庭内感染が多いのか。

「デルタ株では、たとえば5人家族に感染者が1人出ると、5人全員が陽性になってしまうことが多い。最初の武漢株の2・25倍と感染力が強いからです。ただし、毒性が強くなっているとは感じられません。いま入院している方は、8割以上が60代以下で、ほとんどがワクチン未接種。重症者は増えていますが、それは重症化率が高いからというより、感染者の数が多いからという認識です」(東京都医師会の角田徹副会長)

 浜松医療センター感染症管理特別顧問の矢野邦夫医師によれば、

「気道から出るウイルスの数が従来株の千倍ほどもある、という中国のデータも出ています」

 というから、感染力が高いのも無理はない。このことと、子どもの感染増を結びつけて説明するのは、大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授の宮坂昌之氏である。

「人間に備わる免疫の一つが、入ってきた異物をとりあえず攻撃する自然免疫で、子どものほうが大人より強い。子どもは種々のワクチンを打ち、自然免疫が鍛えられているからです。ところが、ウイルスの数が増えすぎると、子どもでも最初の関門である自然免疫が突破され、体内への侵入を許してしまいます」

 では、なぜ子どもが大人に感染させるのか。

「カナダのオンタリオで出された論文には、0~8歳児は、それ以上の年齢とくらべて1・5倍ほど、他人にウイルスをうつしやすいと書かれ、0~3歳児はその傾向がより顕著。子どものほうが親との接触が多く、喋ったり周囲に触れたりするからだと思われます」

 加えて、デルタ株の感染経路を確認しておくと、

「米CDC(疾病予防管理センター)の実験では、感染経路の99・99%は飛沫で、環境(接触)感染はほとんどない。アルコールなどで繰り返し環境消毒をしている家庭や施設が多いですが、マンパワーを飛沫対策に回したほうがいい」(矢野医師)

 これらを踏まえて、防衛策を練っていきたい。

 Q.小学校、習い事に行かせていいか?

「いま、多くの人が学校の再開を怖がって、学級閉鎖や休校を口にしますが、慎重に進めてほしい」

 と、矢野医師は訴える。

「子どもがどういう状況で感染するかを調べた米国の研究によると、最も感染が少ないのは対面授業でした。生徒がマスクをしっかり着用しているか、教師が監督しているからでしょう。逆に感染が多かったのは、課外活動やパーティーなど。管理されている対面授業は安全だと認識してほしい。また、休校にすると、子どもがいる医師や看護師が働けず、医療が崩壊します」

 東京歯科大学市川総合病院の寺嶋毅教授も言う。

「学校生活は子どもにとって大切な場で、塾や習い事は継続しなければ子どもにとって意味がない。換気頻度を増やし、季節によっては窓を開け放したりしながら、継続すべきです。そして子どもたちには、手洗いやアルコール消毒をしっかりさせることです」

 宮坂氏も強調する。

「デルタ株でも子どもは重症化しないので、大人が危ないという理由で、彼らの学校生活を奪うべきではない。急ぐべきは12歳以上のワクチン接種。“学校をどうする”と考えるより、ワクチン接種に注力するほうが建設的だと思います」

換気を怠ると「空気感染」

Q.学校から持ち帰る子どもに言い聞かせるのは?

「“学校が終わったらすぐ帰ってきなさい”と伝える。また子どもにはかわいそうでも、友だち同士で遊びに行くのは、いまは控えてもらったほうがいい。大人の目が行き届かない場所では、子どもはマスクを外してはしゃぎがちだからです」

 と矢野医師。また、

「集団に出入りするときは、しっかり手洗いし、登下校中には、いろんな人が触れる場所には触れないように言いましょう。接触感染は少なくても、子どもは手を口に入れたり、手で目をこすったりするので」

 と話す角田副会長は、こういう提案もする。

「感染したらみんなが入院し、死んでしまう病気ではないことを理解させ、ただ、他人にうつしてしまうリスクがあるので対策するのだ、と伝えましょう」

 Q.手洗い、うがいのコツは?

「外出からの帰宅時や、会社に着いたときなど、手で目や口を触ってしまう前に、指先だけでなく、しっかり洗ってください」

 と矢野医師。その効果を角田副会長が説くには、

「流水で15秒以上洗うだけで、手に付いたウイルスは100分の1になる。さらに石鹸を使うと1万分の1になります。子どもなどアルコール消毒で手が荒れる人もいるので、無理にアルコールは使わなくても、とにかく手を洗うことです」

 うがいはどうか。

「のどに付いたウイルスはすぐに侵入するので、15分に1回など頻繁にできない以上は、あまり効果がない。鼻うがいも同様で、5分に1回といったペースでやらないと意味がない」

 矢野医師も懐疑的で、

「うがいが感染対策に有効だというデータは一つもなく、むしろ飛沫が飛ぶのでやめたほうがいい」

 Q.「空気感染」はどうやって防ぐ?

「デルタ株の蔓延では、飛沫感染のなかでもエアロゾル感染が非常に増えていると考えられます」

 と、宮坂氏は強調し、実例を挙げる。

「ラグビーの合宿で、夜暑いので窓を閉め、エアコンをつけて寝ていたら、部屋にいた8割が感染しました。寝るまではマスクをしていたので、寝息から出た細かいエアロゾルによって感染が広がったと考えられます。また、剣道の道場で稽古をしていた子どもたちばかりか、見学した父母も含めてその場にいた7、8割が感染した。道場の窓を閉めきってエアコンを回していたのです。エアロゾルは細かな水滴で、厳密には空気感染ではありませんが、極めて細かい粒子で感染する以上、空気感染に近い」

 エアロゾルは4時間滞留するという情報もあるが、防ぎようはあるか。

「マスクと送風、換気が大切です」(同)

 Q.正しい換気とは?

「エアロゾルを防ぐなら窓をすべて開け、送風機を置きましょう。エアロゾルは首から上に滞留しがちなので、送風機を上に向けて吹き飛ばします。ウイルスはカビや細菌と違い、空気中や壁の上で増殖しないので、物理的に吹き飛ばすと一定の効果があります」(同)

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