鳥貴族の新業態「トリキバーガー」の実力は 他社のチキンバーガーと比べると――

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 8月23日、「TORIKI BURGER(以下トリキバーガー)」の1号店が東京・大井町にグランドオープンした。新型コロナウイルスの感染拡大で外食産業が大打撃を受けている中、居酒屋業界屈指の人気チェーン「鳥貴族」が社運をかけて挑む新業態である。オープン前に行われた試食会が盛んにニュースに取り上げられるなどメディアからの注目度も高いが、その真価はどうか。フードライターの適掃夫が、マーケティングアナリストの渡辺広明氏と共に取材した。

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 京浜東北線、りんかい線、東急大井町線の3線が乗り入れる大井町の駅前角地という“一等地”に店舗を構えたトリキバーガー。お昼時のピークを外した16時過ぎに訪問すると、10人ほどの行列ができていた。並んでいる間に手渡されたリーフレットには、「高品質のチキンバーガー、トリキプライス、明るく心地よい空間」と3点のこだわりが記されている。

 米国ではチキンバーガー市場が1兆円あること、もともと持ち帰り需要が大きかったハンバーガーはコロナ禍でも高い需要があったこともあり、チキンバーガーへ寄せる業界の期待は膨らんでいる。だが渡辺氏は「日本では既に唐揚げもレッドオーシャンになっていますからね……」という意見だ。たしかに、日本唐揚協会の調査では2021年4月時点で全国の唐揚専門店は約3100超あり、10年前に比べて約7倍、3年前と比較しても約2.2倍に増えている。「チキン」の競争が激化していることは間違いなく、チキンバーガーは唐揚げをすり抜けて選ばれるだけの商品になるだろうか。

「唐揚げが強い理由には、老若男女に親しまれたメニューであり、おかず、おやつ、おつまみとニーズの幅が広いことがあります。またフライヤーがあれば狭い店舗でも営業できて初期費用を抑えられるところも参入しやすいのだと思います。一方、チキンバーガーは既存のバーガーチェーンのメニューにあるものの、主力級とは言い難い。また、おやつのニーズとしてのチキン商品だと、コンビニの『ファミチキ』や『からあげくん』が強いんです」(渡辺氏)

 そこでカギになってくるのが、「鳥貴族」を踏襲した均一価格のトリキプライスである。トリキバーガーでは、午前7~10時半のモーニングメニューに「たまごロール」「あんバターロール」「サラダチキン」など6種があり、セットで490円(単品は290円)均一の価格設定となっている。午前10時半以降のデイメニューでは「トリキバーガー」「焼鳥バーガー~てりやき~」「つくねチーズバーガー」など6種が590円(単品390円)均一となっている。

 ライバルであるバーガーチェーンの最大手・マクドナルドが昼に500~790円という価格帯で販売していることに比べると、トリキバーガーの均一価格は少しだけ安いわけである。我々が訪れた時点では女性客がおよそ7割だった。安く、そしてチキンゆえヘルシー……と消費者心理をくすぐる点はトリキマジックと呼んでもいいかもしれない。スマホの50円引きクーポンでマクドナルドのメニューを決めている節約志向の人こそ、よりこのマジックに魅せられやすいだろう。

 肝心の味だが、看板メニューの「トリキバーガー」も「焼鳥バーガー~てりやき~」も頬っぺたが落ちるような美味しさはない。食べたことある味、挟んである野菜もレタスだけか……というのが率直な感想だ。渡辺氏も「チキンを揚げてバンズに挟んだだけのこのバーガーなら、ファミチキを『ふわふわファミチキバンズ』に挟むのとあまり変わらないかも。むしろファミチキを挟んだ場合は合計268円だから、トリキバーガーの差額の122円が、レタスと手間賃ですかね」という意見だった。

 鳥貴族の焼き鳥には「安いのにこんなに肉が大きいんだ」という感動があるが、トリキバーガーにはそれを感じられない。

実はモスの方が安い……

 先行する「チキンバーガー」と比べてみよう。トリキバーガーから徒歩4分のところに、モスバーガー大井町店がある。高級なイメージの強いモスバーガーだが、改めて店頭のメニュー表を見ると、テリヤキチキンバーガーが380円、チキンバーガーが290円。これにポテトS・ドリンクセットをつけると、それぞれ790円、700円になる。そう、単品ではトリキバーガーより安いのである。注文すると、「テリヤキチキンバーガーのほう、お時間8分ほどいただきますがよろしいでしょうか?」と確認を求められた。

「注文から1~2分で提供できる技術を磨きたいと言っているトリキバーガーとは真逆ですね。でも、本当においしいものを食べるのなら待ち時間も案外重要なスパイスかもしれませんよ」(渡辺氏)

 そして提供されたテリヤキバーガーだが、見た目も味わいもトリキバーガーに圧勝だった。トリキバーガーがあえて「焼鳥バーガー~てりやき~」と遠回しなネーミングにしたのも、モスの「テリヤキチキンバーガー」と比較されたくなかったからでは、と邪推するほど味わいが段違いだった。ちなみにモスはレタスだけでなくオニオンスライスもサンドされていて、芸が細かい。「安いかもしれない」というトリキプライスのマジックが完全に解けると同時に、来年7月に創業50年を迎える日本発祥のハンバーガーチェーンの実力を再確認した瞬間だった。

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