元海上保安官「尖閣諸島に行政標識を」 石垣市長は設置を決断するも政府は及び腰

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愛国心と使命感

 市が取り組む行政標識の設置は、地方自治の範疇における行政手続きの一つに過ぎず、政府が口を挟むことではありません。もし申請を不許可とするなら、石垣市民だけでなく、すべての国民にその合理的な理由を示す必要があるでしょう。

 また、政府は一日も早く中国艦艇による領海侵犯の放置をやめると同時に、国の内外に「東シナ海で、日本領の島々が中国の不当な侵略行為を継続的に受けている」と訴えるべきです。

 いまも尖閣の島々には、かつて島に生きた人々のお墓のほか、戦時中に犠牲になった人々の慰霊碑も遺されています。昭和44年(1969年)に標識を設置した折には彼らの慰霊祭も行われています。行政標識を新設する際にはご遺族やご親戚と一緒に島に渡り、半世紀ぶりに故人らのご冥福を祈る機会にもしたいと考えています。

〈改めて安田氏は、海上保安庁のOBという立場からも行政標識を設置する意味を強調する。〉

 今後も海警局と海保のにらみ合いが続き、その先で不測の事態が生じれば、真っ先に血を流すことになるのは海上保安官でしょう。中国政府は今年2月に「海警法」を施行して、外国船からの脅威を阻止するための武器使用を含む、あらゆる手段の行使を認めました。海警船は物理的にも法的にも武装しているわけで、それこそが中国が本気で島を奪いに来ていることの証左だと思います。

 現在、11管区では14隻の大型巡視船と約500人が尖閣領海警備の専従体制に就いています。中国船が来る限り、海上保安官の監視業務は続きます。時には24時間以上も緊張状態が続く激務ですが、といって特別な手当が支給されているわけでもありません。

 そんな彼らを支えているのは、強い愛国心と高い使命感に尽きます。いまも士気は高いと聞きますが、政府が市の訴えを受け入れれば、職員たちはますます奮起するでしょう。自分たちが日夜、最前線で守る島と海が、国家にとってかけがえのないものだという気概と自負が生まれるからです。

 尖閣諸島における行政標識の設置は、中国の横暴に比べれば小さく些細なことに見えるかもしれません。しかし、この取り組みは日本が他国の侵略を決して許さず、自国の領土を自らの手で守り抜くという揺るぎない決意、さらにはかかる中国の力の行使が民主主義と国際法への重大な挑戦であることを世に示す、大きな一歩になる。私はそう信じています。

安田喜禮(やすだきれい)
元海上保安官。1942年、沖縄県生まれ。商船会社勤務を経て、1972年に海上保安庁に入庁。沖縄県の本土復帰と同時に那覇市に開設された、第11管区海上保安本部の石垣保安部などに勤務。2003年、しれとこ型巡視船「よなくに」の主任航海士を最後に退官。石垣市在住。

週刊新潮 2021年7月29日号掲載

特集「なぜ中国に気兼ねするのか 『尖閣諸島』に『行政標識』を設置せよ」

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