みそ汁で胃がんのリスクを低減 名医が実践する「長生きみそ汁」の作り方とは
「色味を見ながら選ぶ」
こうした疫学調査を踏まえ、渡邊氏らはみその「がん予防効果」についてマウスやラットを使って実験している。
「食塩入りのエサとみそ入りのエサを与えたラットを育て、発がん性物質を与えてどのような結果が出るかを調べました。すると、みそ入りのエサを食べたラットは胃がんの発生率が低く、発生したとしてもがんの大きさが小さいことが分かりました。また、熟成が進んだみそのほうが胃がんの抑制効果が高まることも判明しました」(同)
渡邊氏らによると、みそは胃がんだけではなく、肺腺がん、大腸がん、肝臓腫瘍などに対しても一定の予防効果があることが分かっているという。また、別の研究者はみそに乳がんの予防効果があることを明らかにしている。
「なぜみそががんを抑制するのか、はっきりとした理由はまだ不明です。ただ、熟成したみそでは、大豆に含まれる有効成分のイソフラボンに結合している糖が離れて『アグリコン型』になっていることが分かっています。アグリコン型になったイソフラボンはより体内に吸収されやすくなる。みそにがんの予防効果があるのは、そうしたことも関係しているのかもしれません」(同)
我が国には、「みその医者殺し」ということわざが存在する。みそを摂るだけで健康が維持できるので医者は商売あがったり、といった意味だが、それが先人たちの単なる“思い込み”ではなかったことが、近年の研究で明らかになってきているのである。
「みそには、麦みそ、豆みそ、米みそなどさまざまな種類がありますが、健康効果を求めるなら重要なのは種類より発酵期間です」
渡邊氏はそう説く。
「私たちの研究では、どうやら発酵期間が2年のみそが最も健康効果が高いことがわかってきています。スーパーで売っているみそは発酵期間が3カ月くらいのものが多く、少し高級なもので半年くらいだと思います。ですから、みその量り売り店に行って、発酵期間が2年くらいのものを教えてもらうのがいいのではないでしょうか。逆に『10年熟成』など長すぎるものは効果がなくなります」
近所にみその量り売り店がなく、どうしてもスーパーで購入する場合は、
「白みそより発酵期間が長い赤みそがおすすめです。みその色が濃いもののほうが発酵期間が長いので、色味を見ながら選ぶといいでしょう」
と、渡邊氏。
「発酵期間が2年くらいのみそは塩角(しおかど)がとれた味わいなのでとても美味しいですよ。よく減塩みそやだし入りみそもみかけますが、減塩だと常温保存が難しくカビやすくなります。だし入りみそはうまみがある分発酵期間が短い可能性があるので、普通のみそがおすすめです」
渡邊氏が毎日3食みそ汁を飲んでいることにはすでに触れたが、
「朝晩は野菜たっぷりの具沢山みそ汁を食べています。野菜に多く含まれるカリウムはナトリウムの排出効果があるので、やっぱり塩分が気になる、という方にはおすすめです。意外かもしれませんがピーマンのみそ汁は苦味がみそとマッチして美味なので試してみて下さい。また、忙しくて時間がない人は乾燥わかめやフリーズドライの野菜にみそを入れ、お湯でとかして飲むだけでもいい」(同)
毎朝の「ルーティン」に
渡邊氏のように毎日3食みそ汁を飲むのはさすがに難しい、という方も心配はいらない。冒頭で紹介した順天堂大学医学部の小林教授が考案した「長生きみそ汁」は、1日1杯で十分に健康効果を得られるという。しかも、あらかじめ「長生きみそ玉」を作って冷凍しておき、食べる直前にお湯を注いだり、野菜を煮込んだ上で溶かすだけで簡単にみそ汁が完成するので、忙しい人にもピッタリだ。
「長生きみそ玉」10個分、すなわちみそ汁10杯分の材料は次の通り。赤みそ80グラム、白みそ80グラム、玉ねぎ150グラム(約1個)、りんご酢大さじ1杯。
「赤みそにはメラノイジンという抗酸化作用のある成分が豊富に含まれており、白みそにはストレスを軽減してくれるGABAがたっぷり入っています。玉ねぎには解毒効果抜群のアリシン、ケルセチンが豊富で、りんご酢には余分な塩分を排出するカリウムが多く含まれています」
と、小林教授は語る。
「長生きみそ汁を飲むだけでもさまざまな健康効果が期待できますが、食物繊維が豊富で、強い抗酸化力を持つファイトケミカルという物質を含む野菜やキノコを具材に選ぶことで、さらに健康効果は高まります」
「長生きみそ玉」の作り方はいたって簡単で、
「まず、ボウルなどに玉ねぎをすりおろします。バラバラになるのを防ぐため、玉ねぎの根は残したままにして下さい。次に、玉ねぎをすりおろしたボウルに赤みそ、白みそ、りんご酢を加え、泡立て器で混ぜ合わせます。最初はみそが固く、混ざりにくく感じますが、玉ねぎの水分とりんご酢のおかげで、すぐにスムーズに全体が混ざり合います」(同)
それを10等分するように製氷器に分け入れ、冷凍庫に入れる。
「冷凍庫で2~3時間凍らせれば完成です。氷のようなカチカチの状態ではなく、シャーベットくらいの固さになります。調理に使う時には、フォークで刺せば簡単に取り出せます」(同)
あとは水を入れた鍋で野菜やキノコなどを加熱し、火を止めた後に「長生きみそ玉」を投入して溶かすだけ。これなら毎朝の「ルーティン」に加えたとしてもそれほど負担にはならないだろう。これほど簡便で効果が見込める「健康法」はなかなかないはずである。
[2/2ページ]