みそ汁で胃がんのリスクを低減 名医が実践する「長生きみそ汁」の作り方とは

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 どうすれば自分自身や家族の健康を維持できるのか――。永遠に続く「問い」だが、日本人にとって答えは身近なところに存在しているのかもしれない。みそ汁を毎日飲むだけで、がんや脳卒中を予防。しかも血圧も下がる可能性があるというコペルニクス的転回とは。

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 みその起源は古代中国の発酵食品「醤」だとされている。いつ日本に伝来したのかは不明だが、平安時代に初めて「味噌」という文字が文献に現れ、鎌倉時代には「みそ汁」という料理が登場。室町時代に入ると、みそは保存食として庶民にも浸透したといわれている。

 まさに日本の歴史とともにあったみそ。その健康効果に改めて着目し、試行錯誤の末に「長生きみそ汁」健康法を考案したのは、自律神経の名医、順天堂大学医学部の小林弘幸教授である。自律神経のバランスが整い、便秘も改善、大腸がんリスクも軽減される――。「週刊新潮」7月22日号でお伝えした「長生きみそ汁」の作り方については後で触れるが、何故、みそには「病を遠ざける」力があるのか。近年、多くの研究によってその健康効果が明らかになってきている。

「みその原料の大豆には、たんぱく質やビタミン、食物繊維などの重要な栄養素がたっぷり含まれています。さらに発酵させることでより栄養価の高い食材にバージョンアップします」

 と、小林教授は語る。

「ビタミンB1、B2、B12、ナイアシン、葉酸、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛など多くの栄養素が含まれていて、挙げればきりがないほどです。また、近年では『みその発酵が老化制御機能を生む』『血圧上昇を防ぐ』『胃がんを抑制する』などの健康効果も実証されています」

 いくらみそが体に良いといっても塩分が……と思って敬遠してきた方もいるだろう。しかし2017年、広島大学名誉教授の渡邊敦光(ひろみつ)氏らのグループがみその塩分について画期的な発表をした。なんと、食塩と同量の塩分をみそから摂取しても血圧は上昇しない、というのだ。

 渡邊氏らのグループは脳卒中を起こしやすいラットを三つのグループに分け、それぞれに(1)みそ食(2)高塩食(3)低塩食を約2カ月間食べさせた。すると、

「高塩食ラットはみそ食や低塩食ラットに比べて血圧が高くなっていましたが、みそ食と低塩食を比べると有意差がない、つまり、ほぼ血圧に差がありませんでした。このことから、みそ食は、高塩食と同じ塩分量が含まれていても、血圧は上がらないことが分かります。みその降圧効果については私たちのグループが06年に出した研究結果でも示されていました」(渡邊氏)

 この実験では、高塩食ラットは12匹全て死亡。低塩食ラットは12匹中10匹、みそ食ラットは7匹が生き残った。

「ラットの脳を調べると、高塩食ラットには大きな出血斑がありましたが、みそ食や低塩食ラットにはなかった。脳血管の血栓や腎障害の病理学的評価でも、みそ食ラットは高塩食ラットに比べて正常に近かった」

 と、渡邊氏は続ける。

「つまり、みそ食には高塩食と同量の塩分が含まれているのに、ラットの脳卒中発生率は低下し、脳と腎臓の損傷も抑制された。なぜみそに降圧効果や脳卒中抑制効果があるのかはまだ分かっていません。ただ、みそが発酵する過程で、降圧成分ができることが、私たちの研究で分かってきています。塩で味付けするくらいなら、みそで補うことをおすすめします」

放射性物質の防御作用も

 ちなみに渡邊氏は御年80歳。毎日3食、必ずみそ汁を飲むという氏の、みそとの「出会い」は30年ほど前にさかのぼる。

「私は最初からみそに興味があったというわけではなく、元々はずっと放射線について研究していました」

 渡邊氏はそう振り返る。

「九州大学大学院で発生生物学を研究後、広島大学原爆放射能医学研究所(現・広島大学原爆放射線医科学研究所)の助教授となり、イギリスのパターソンがん研究所でも放射線防御の研究をしていました。ところがイギリスからの帰国後、教授から“研究費がついたからみその研究を手伝え”と言われ、しぶしぶみその研究を始めた。それがみそとの“出会い”でした」

 放射線とみそ? 一見、何の関係もなさそうに思える両者だが、

「実はみそには放射性物質の防御作用があるといわれています。長崎で自身も被爆しながら医師として救護にあたった秋月辰一郎先生は、みそに原爆症の軽減効果があると提唱されていました」(同)

 ちなみにその秋月医師は「わかめの入ったみそ汁」を意識的に摂り、原爆症を発症せず89歳で他界している。

「私はイギリスで消化管における放射線防御作用の研究をしていたので、それをみそに応用してみることにしました。その結果、マウス実験ではありますが、被曝した小腸はみそを摂取することによって再生力が高まることが分かった。私がこうしたみそ研究を始めた頃はみそを対象にしている人なんてほとんどいませんでしたが、最近はみその健康効果に注目が集まり、研究も増えています」

 そう語る渡邊氏らが、みそに血圧を下げる効果があるとの研究結果を導き出したことについては先述した。

「元々、海外の先行研究によって、米国、英国、中国、日本の4カ国の中で、日本人が最も塩分摂取量が多いにもかかわらず、血圧は最も低いというデータがありました。日本人は摂取塩分の約3割をみそや醤油などの発酵食品から摂っていることも分かっており、そうしたことが関係しているのかもしれません」(同)

 また、みそにはがん予防の効果があることも分かっているという。

「1981年、国立がんセンター研究所の平山雄博士が40歳以上の男女のべ300万人以上に行った疫学調査によって、みそ汁を飲む頻度が高くなるほど、胃がんの死亡率が低くなることが明らかになりました」

 と、渡邊氏。

「特に男性では全く飲まない人の胃がんによる死亡率はよく飲む人に比べて1・5倍になるという結果でした。さらに、同じ調査を喫煙の有無で分けたところ、喫煙するが毎日みそ汁を飲む人の方が、喫煙しなくて全くみそ汁を飲まない人より胃がんの死亡率は低くなっていました」

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