五輪ゴルフを強化委員長・倉本昌弘氏が徹底解説 「松山」は金メダルを獲れる?「笹生」「畑岡」のライバル関係に注目

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 日本のゴルファーが世界を制す――一昔前の夢物語が今、現実と化した。松山英樹(29)がマスターズを制し、笹生優花(20)と畑岡奈紗(22)が全米女子オープンでワンツーフィニッシュ! 俄然期待が高まる東京五輪の展望を、強化委員長を務める倉本昌弘氏が語る。「週刊新潮別冊『奇跡の「東京五輪」再び』」より(内容は7月5日発売時点のもの)

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 男子はマスターズ優勝の松山英樹、女子は全米女子オープン優勝の笹生優花。世界のメジャー・トーナメントを制した2人の日本選手が出場を予定している。東京五輪のゴルフはゴルフファンならずとも期待に胸躍る4日間になるだろう。

「日本選手」と書いたが、笹生は母の母国フィリピン代表で東京五輪に出場する。迎え撃つ日本代表のエースは畑岡奈紗。全米女子オープンでプレーオフを演じた笹生と畑岡が東京五輪でも優勝争いを演じてくれたら盛り上がるだろう。

 その前に気がかりなのは、コロナウイルス対策や大会後のツアースケジュールを考慮して、松山をはじめ一部有力選手が出場を回避する可能性があること。松山は前回のリオ五輪には出場しなかったが東京五輪には意欲的で、1年前からコース近くに一軒家を借りているほど。現段階(6月19日時点)では、出場してくれる前提で話を進めよう。

 男子ゴルフが行われる7月29日から8月1日は猛暑が予想される。しかも、東京五輪直後には世界選手権シリーズのフェデックス・セントジュード招待がアメリカ・テネシー州で開かれるため、東京五輪だけに集中して準備するわけにもいかない。連戦が続く中、大切な大会のひとつと位置づけて臨むだろう。

 ゴルフはいくら実力があり、好調でも必ず勝てるとは限らない。優勝確率が他の競技と比べたらはるかに低いことは理解しておいてもらいたい。全盛時のタイガー・ウッズでさえ、連戦連勝とはいかなかった。東京五輪の週が松山にとって「自分が優勝する運命にあった」、そんな流れを呼び込めるかどうかが優勝への最大の条件かもしれない。

 松山のショット自体はかなり前から十分に世界のトップレベル。マスターズを制覇するずっと前から、「パッティングさえよければ勝てる」という状況が続いていた。今年のマスターズでは、入れなきゃいけないパットをきっちり入れたのが勝因だったと思う。あとは、「あまり怒らずにできている」と、最終日を前に本人がコメントしたとおり、終始落ち着いてプレーできていた。崩れかけたところでも怒らなかった。「怒りをいなせた」のが大きかった。そこに松山の確かな成長も感じた。

 そして何より、マスターズを制覇できたのは「松山の存在感」だった。勝つときはそんなものだが、勝負どころで周りの選手が次々に崩れていった。

 最終日の15番ホール。松山が池に入れてボギーとし、シャウフェレに2打差と詰め寄られた。優勝争いが俄然、緊迫した。ところが、続く16番で今度はシャウフェレが池に入れ、トリプルボギーを叩いて脱落してしまう。見ていて私は信じられなかった。普通はありえないミス。松山の存在がシャウフェレに大きな重圧を与えたのだろう。それだけの威厳と無言のプレッシャーを周知させている。それは世界のメジャー大会、そして東京五輪のような特別な大会を制覇する大切な条件と言えるだろう。だから、松山が最終日まで好位置につけ、優勝を争う展開になれば、金メダルの可能性は大いにあるだろう。

五輪用に改造したコース

 東京五輪の舞台となる霞ヶ関カンツリー倶楽部東コースは、1929年に竣工。世界有数のゴルフ場設計家チャールズ・アリソンが改造を加えたホールは味わい深く、プレーするのが楽しみなコースのひとつだった。

 今回はオリンピックのために、トム・ファジオとローガン・ファジオに改造を依頼した。フェアウェイを狭くした上、適度なうねりを加え、傾斜のあるグリーンをガードする深くて大きなバンカーが増設された。18番の池も大きくなった。正確なアイアンショットを求めるコンセプトだろうが、改造された池やバンカーは多くの選手にとって、あってもなくても同じではないだろうか。

 何しろ、ここ数年のトッププロたちの飛距離と正確さの進化は目覚ましいものがある。高度な研究によって開発されたクラブを巧く使いこなし、科学的な解析を日頃から活用して技術と飛距離を向上させている。果たして、設計者の意図どおりの難しさに選手たちが激しく触発され、通常のツアートーナメントとは違う勝負が展開されるのか。それともコース改造の意図を選手の力量が凌駕するのか。ふたを開けてみなければわからない。私の予想では、コース改造はそれほど選手を苦しめないのではないだろうか。

 グリーンは若干硬め。かなり速めに設定されるだろう。グリーンの速さはスティンプメーターという計測器で測る。7・5以下なら遅い、9・5以上なら速いとされる。プロのトーナメントでは11~12も珍しくない。東京五輪では11くらいではないかと予想する。通常の日本のコースより遥かに速く硬いグリーンになるが、世界の高速グリーンに慣れている松山にとってはそれほど難しくないだろう。

 コースの状態は、7月の雨の量によって変わる。雨が多ければコースは長く感じる。雨が少なければ短く感じるだろう。ラン(ボールが弾んでから転がる距離)の出方が大きく変わって、セカンドで使うクラブが全然違ってくる。これがどの選手に有利になるか。

 東京五輪では、全長7400ヤード前後になると思うが、いずれにしても、松山は順応できるだろう。全長8千ヤード前後になれば苦しいが、7400なら合っている。飛ばし屋が多い最近のトッププロたちの中で、松山はあえて飛ばし競争に参加せず、平均300ヤード前後の距離で自分のゴルフを展開することに特化している。距離を伸ばそうとすればその分、曲がる可能性も高い。そのリスクを計算すれば、飛ばそうとするより着実にコースマネジメントした方が結果を出せるという松山の判断は正しいと思う。テクニカルなゴルフが要求される霞ヶ関のコースは、松山に向いているだろう。

 勝負の分かれ目はコースの終盤にあるだろうと私は見ている。

 14番に600ヤードを超えるパー5のロングホールがある。細長く、ほぼ真っ直ぐに伸びるフェアウェイの幅は狭い。

 トッププロにとってはそれほど難しくはないだろう。むしろ、その14番を終えた後、15番から18番の4ホールでどれだけスコアを伸ばせるかが優勝争いのカギになる。

 15番は約400ヤードのパー4。私ならセカンドを4番か5番で打つだろうが、例えば飛ばし屋のマキロイだったら、9番かピッチングで打てる。

 16番は約200ヤードのパー3。17番は約340ヤードのパー4。そして最終18番が約500ヤード、やや右ドッグレッグのパー4。1打目が300ヤード以下なら2打目は大きな池越えになるが、350ヤードを超えたら、池のプレッシャーはそれほどない。

 私がギャラリーなら、これら終盤の4ホールを中心に見て回る計画を立てるだろう。テレビやネット観戦でもここに注目するのがおすすめだ。

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