我が子2人を殺めた「タイ人妻」事件 姑に土下座、法廷で明かされた“壮絶イジメ”

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「子供を殺した――」

 昨年3月23日午前、東京都内のある繁華街の駅前交番にタイ国籍の女性が出頭した。

 交番から約200メートルほど離れた女性の自宅マンションに捜査員らが向かうと、部屋には中学1年と小学4年の兄妹の遺体が横たわっていた。ふたりには刃物による多数の刺し傷があり、兄の遺体の足元には黄色の、妹の遺体の右脇にはピンク色のカーネーションの花束がそれぞれ置かれていた。

 同日、殺人容疑で逮捕されたのは、母親のフルカワ・ルディーポン(当時41)。逮捕当時、夫との間に親権をめぐるトラブルがあったと報じられていたが、裁判員裁判では、長年にわたる“婚家の壮絶ないじめ”が明らかになった。【高橋ユキ/傍聴ライター】

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 長男(13=当時)と長女(10=同)に対する殺人罪で起訴された母親、フルカワ被告に対する裁判員裁判は、今年6月7日から東京地裁立川支部で開かれた。公判当初より、犯行当時のフルカワ被告が心神耗弱状態にあったことに争いはなく、また被告は起訴事実を全て認めていた。

 検察から懲役20年が求刑されたが、6月17日に下された判決は懲役7年。控訴せず、刑は確定した。河村俊哉裁判長は、

「見知らぬ外国での暮らし、孤立無援のなか、夫の一族から生活や子育てにいたるまで10年以上叱責を受け、複雑性心的外傷ストレス障害を発症していた。そのなかで、突然離婚と単身での帰国を迫られ、子供を残して帰国せざるを得ない状況に追い込まれ、子供らに会えなくなると急性ストレス障害を発症した」

 と、被告の精神疾患の原因が夫の親族からのいじめにあると認定している。

一家総出の「ファミリー・ビジネス」

 タイに住んでいたフルカワ被告は、宝石展示会で出会った夫と2006年に結婚し、日本にやってきた。翌年には長男が、09年には長女が誕生している。義理の両親は宝石販売会社を営んでおり、長男である夫も二代目として奮闘していた。事件現場となった駅前の高級マンションに家族4人で暮らしていたが、埼玉県への出店が決まったのち、夫は単身赴任していた。

 公判調書では、義母は「ファミリー・ビジネス」という言葉を繰り返し使っている。フルカワ被告と夫のみならず、義弟とその妻も両親の会社を支えていたという。フルカワ被告が担当していたのは、東京の店舗での接客や事務作業だった。被告に命を奪われた子供たちもそんな家族を見て育ち、とくに“三代目”として大事に育てられていた長男は、すでにその自覚が芽生えていたようだ。担任の教師が調書でこう振り返っている。

「すでに跡取りとなることを意識していて、おばあさんの話をよくしていたほか、店の仕事を一部任されていると言っていました。『お客様への“お茶出し係”はもう妹に譲って、いまはおじいちゃんの作業中に落ちたルビーを拾ったりしている』と話していたので『先生が最初のお客さんになってあげるよ』と言うと『もうおばあちゃんのお客さんを譲ってもらった』と言っていました」

 一方、“ファミリー・ビジネス”を営む家族から見て、フルカワ被告は“出来た嫁”ではなかったようだ。義母は調書で次のように語っている。

「長男は単身赴任後、自宅に戻る様子はなく、被告のことは聞きたくないという様子だった。『でしゃばる』と愚痴っており、1〜2年後には離婚話をしはじめ、こう言っていた。『あいつは人のいうことを聞かない。向上しないし人の役に立たない。タイに帰ってもらう』。離婚という意味だと思った。配偶者には一緒に会社を盛り立ててくれる人を期待しており、被告にはそれを望めないと思っていた様子だった。私も盛り立てて欲しいと思っていたが、被告には期待できないと思っていた」

 夫から持ち上がった別れ話――。離婚してひとりでタイに帰国することをフルカワ被告に求めたが、彼女はそれをも望んではいなかった。だが他の家族もこれに同調し、事件2日前には、フルカワ被告は義両親から激しく問い詰められ、その様子を撮影されてもいる。事件を起こした日は、サインさせられた離婚届を家族に渡す予定になっていたという。

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