これから日本のベンチャーはどんどん伸びる――藤野英人(レオス・キャピタルワークス代表取締役会長兼社長)【佐藤優の頂上対決】

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 これからの20年で、時価総額上位100社のうち2割はベンチャーに取って代わられる――。新興企業向け株式市場マザーズの開設から20年余、ようやくベンチャーが成長する環境が整ってきた。昨年のコロナ相場を読み切ったファンドマネージャーが告げる日本企業「大変革時代」の到来。

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佐藤 藤野さんの会社は日本株運用では最大級のファンドで、投資信託の「ひふみ投信」などを運用されています。昨年2、3月のコロナ相場では、暴落を見事に読み切ったことが話題になりましたね。

藤野 「妖怪アンテナ」が立ちました(笑)。「ゲゲゲの鬼太郎」では、鬼太郎が髪の毛を立てて妖気を感じ取りますね。それと同じで、とんでもないことが起きているのに過小評価されているのを、少しだけ早く察知できたんですね。

佐藤 コロナの感染が広がり始めても、2月末あたりまで株価は高値を維持していました。

藤野 世界のマーケットの中心はやっぱりアメリカなんです。そのアメリカで、株価は一昨年の12月から昨年2月まで上がり続けていました。そうした状況ですから、1月に中国・武漢で感染爆発が起こり、ダイヤモンド・プリンセス号の集団感染が世界中で報じられても、彼らの捉え方は「コロナはアジア人だけがかかる奇病だ」という程度の認識だったんですよ。

佐藤 メインマーケットのアメリカの投資家がコロナ禍を軽く見ていた。

藤野 でもウイルスの感染率は、人種によって大きく変わるものではないでしょう。

佐藤 種は同じですからね。

藤野 だから必ず西洋人にも感染する。そう思っていたところへ、2月13日に海外渡航歴のない千葉県在住20代男性の感染が報道されました。もう市中感染が広がっているのかとこの時驚いたし、海外ではイタリアで感染者が増えつつありました。だから感染爆発は避けられない、と思いましたね。

佐藤 まだあの時期は、誰もがこんな事態にまで至るとは思っていませんでした。

藤野 すぐに100年前のスペイン風邪の時はどうだったか調べてみたら、ステイホームしているんですね。与謝野晶子の体験談によれば、みんながマスクしたり、家で過ごしたりしている。また、いまで言うエッセンシャルワーカーが感染して、電気が来なくなったり、交通インフラでは電車が止まったりした。

佐藤 いち早くスペイン風邪のことを調べられたのは、慧眼でしたね。

藤野 ほんとうに類似していました。しかも終息には2年もかかっている。だから株価は下がる、これから10日くらいで、持っている株を売った方がお客様の損を減らせる、と思いました。またアメリカのマーケットは最高値近辺の株価でしたから、さらに上昇する確率はそうはないとも判断しました。

佐藤 妖怪アンテナは、アナロジカル(類推的)な思考とロジカル(論理的)な思考を融合したものだったのですね。これはインテリジェンスの世界と非常に近い考え方です。

藤野 それで2月14日から現金比率を大幅に上げることにしました。それまで平均2~3%程度だったのを30%まで引き上げた。金額にすると、2月末までに約2千億円分の株式を売り、現金化しました。

佐藤 かなり大きな額ですね。

藤野 一種の撤退戦ですが、ここで大切なのは、逆行して高くなりそうな「しんがり銘柄」を買っておくことです。外出制限が出て巣ごもり需要が高まると見て、米国のドミノ・ピザとズーム・ビデオ・コミュニケーションズの株を買いました。

佐藤 逆に売ったのはどんな銘柄なのですか。

藤野 設備投資関連などの景気敏感株です。

佐藤 そして予想通り、その直後に暴落しました。

藤野 イタリアで感染爆発し、また2月末にはウォール・ストリートでも感染者が出て、欧米で大パニックになりました。それで、株安がどんどん進行していった。

佐藤 そこで今度は買いに入ったわけですね。

藤野 現金は下げ局面では強いのですが、相場が反転したら、そのまま持っていてもしょうがない。そこで株価が下がったところで、現金化したうち1千億円を使って買いに入りました。その中には、NTTやKDDIなどの通信会社、テルモやシスメックスなど医療系の会社があります。どれもコロナ禍が長引くことを見据えてプラスの影響が期待できる銘柄です。結果的に昨年の当社のファンドは、日経平均やTOPIXよりも大きな上昇を示すことができました。

佐藤 その後の株価は、このコロナ禍にあっても上昇を続けて高止まりしています。これをどのようにご覧になっていますか。

藤野 大本には、世界的な通貨供給量過多があります。それがマーケットに流れ込んでいる。日本銀行もETF(上場投資信託)で株式を大量に買っています。ただワクチン接種の拡大などで、金融緩和へ期待が減り、投資家がマーケットからお金を引き揚げる可能性もあります。ですから、今年のどこかで調整局面に入るのではないかと見ています。

ヤンキーの虎

佐藤 藤野さんはもともと法曹界を目指されていたそうですね。どうして投資の世界に入られたのですか。

藤野 検事志望だったのですよ。悪い企業家を捕まえてやろうと思っていた(笑)。私の祖父は裁判官でしたが、父の代は誰も司法界に行かなかったんですね。だから私をその方面に進ませたがった。それにたまたま、検事総長の伊藤栄樹(しげき)さんが、私の出た愛知県立旭丘高校の先輩だったんです。

佐藤 「巨悪を眠らせない」という有名な言葉で知られていますね。「ミスター検察」と呼ばれていた。

藤野 高校時代からかっこいいと思っていました。だから検事を目指したのですが、法学部在学中には司法試験に合格できなかったんです。そのまま司法浪人できるほどお金がなかったので、2年くらいどこかに勤めながら勉強しようと考えた。

佐藤 それが投資会社だったのですね。

藤野 ゼミの先輩に相談すると、裁判官や検事は世間知らずが多い、金融機関に行けば、お金の流れがわかるし、事業の内側も見られるから、将来、司法界でも有利なポジションにつける、と勧められたんです。当時はバブルでもあり、お金も稼げそうでしたから、野村投資顧問(現・野村アセットマネジメント)に入りました。

佐藤 そうしたら仕事が面白くなったのですね。

藤野 配属されたのは、中堅中小企業に投資する部署でした。最初は嫌で嫌でしょうがなかったんですよ。自分が逮捕しようとしていたようなタイプの人がたくさんいる(笑)。毎日毎日、いかがわしい感じのある地方経営者に接していることに、ものすごく違和感がありました。でもそれを2年、3年と続けていくと、大手町や霞が関近辺で仕事をしているエスタブリッシュメントより、彼らの方にリアリティがあると思うようになったんですね。

佐藤 どんな点にそう感じたのですか。

藤野 地方の経営者の多くは、学歴もそれほど高くないし、経営理論も知りません。かつ粗野な人たちでもありますが、それぞれが会社を作り、経営し、ビジネスを行っているわけです。彼らを毎日1時間半ずつインタビューして回っていましたが、みんな本気なんですよ。投資会社からお金を引き出そうとしていますから、必死です。そんな彼らの手練手管が面白いと思うようになってきた。それで、逮捕するほうじゃなくて、彼らの側に行くべきだと思ったんです。

佐藤 その選択はよかったと思いますよ。私が逮捕された時の経験から言うと、検察官で成功する人は、中学高校時代のいじめられっ子が多い。彼らが権力を握っていじめ返してやるという動機で出世していく。だから相当にえげつないこともします。

藤野 私は佐藤さんが原作の漫画『憂国のラスプーチン』を読んだのですが、あんな体験をしながら、世の中や人に信頼と希望を持ち続けられるのはすごいと思いました。

佐藤 私には、検事に対する恨みは全然ありません。彼らも仕事でやっているだけで、私にマイナスにならないようギリギリのところで仕事してくれる人もいた。そこは役人をやっていましたから、よくわかるんです。

藤野 確かにそれも書いてありましたが、そうは捉えられない人もいます。

佐藤 まずは逆境にあっても動くことですよね。そうすると人間に関心を寄せることになり、ポジティブな発想になっていく。藤野さんが地方の中小企業経営者に興味を覚えたのも同じことでしょう。

藤野 確かにそういう面はありますね。

佐藤 藤野さんは、その地方の経営者たちを「ヤンキーの虎」と名付けて、本まで書かれている。

藤野 地方で貪欲にビジネスを繰り広げている彼らの名刺を見ると「〇〇ホールディングス」という社名で、何をやっているのか分からないことが多いんですね。でも裏側を見ると、建設業、不動産賃貸業、介護施設運営、ガソリンスタンド経営、レストラン経営と、さまざまな事業が刷ってある。別に崇高な理念を掲げているわけでも近代的な経営をしているわけでもないのですが、旺盛な事業欲があるし、彼らこそが地域経済の担い手になっている。

佐藤 彼らの動向は政治にも大きく影響します。自民党の強さの原点は、彼らヤンキーの虎の頭を押さえていることだと思います。

藤野 ちゃんと土着的な企業家と密接につながっている。彼らは地縁、血縁で地方のマイルドヤンキーの受け皿になっていますから、影響下にある人の数も多い。

佐藤 ヤンキーの虎が、努力だけでは限界があると考え、「縁」や「運」を重視するという指摘も面白かったですね。

藤野 パワーストーンや風水などが彼らの精神的サポートになっていることがあります。

佐藤 マッキンゼーやボストンコンサルティングなど、経営コンサルタントの経営理論が通用しない。

藤野 ヤンキーの虎たちは、船井総研や盛和塾、西田塾などのセミナーや勉強会によく行きます。企業の経営戦略をMBA的に語るのではなく、地元に密着した経営や生き方という観点から学んでいる。

佐藤 独自の生態系を形成しているのですね。

藤野 現代の地方豪族と言ってもいいかもしれません。

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