これから日本のベンチャーはどんどん伸びる――藤野英人(レオス・キャピタルワークス代表取締役会長兼社長)【佐藤優の頂上対決】

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2040年の日本

佐藤 これに対して、都市部にいるのが「べンチャーの虎」ですね。

藤野 先端の技術やマーケティング理論を使って、高成長しながら世界展開を目指す起業家たちです。彼らはすでに評価されているし、上場している会社も多い。

佐藤 ただ日本のベンチャーの7割が3年以内に倒産・廃業するとも言われています。日本のベンチャーの現状をどう見ていますか。

藤野 日本のベンチャーは、これからどんどん伸びていきます。世界の壁を軽々と越える大谷翔平や藤井聡太のような存在が出てくると思いますね。

佐藤 それはうれしい見方ですね。

藤野 1999年に新興企業向け株式市場・東証マザーズが開設されましたが、当時は絶望的でした。その頃、私はゴールドマン・サックスにいて、東京とニューヨークを往復したんです。アメリカではちょうどGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)が勃興し始めた頃で、優秀な若者たちがあちこちで起業したり、ベンチャーに入ったりして、大企業や官庁に行かなくなった。

佐藤 日本でもIT企業などを起業する人たちはいました。

藤野 ただ起業したりベンチャーに行くのはかなり変わった人たちで、楽天の三木谷浩史さんのように超優秀な人もいましたが、多くはタマが悪かった。日本の優秀な人たちは、まだ大企業や官庁に吸い込まれていました。

佐藤 それが変わってきたのですね。

藤野 3年くらい前から変わり始めたと思います。今回も接待問題が騒ぎになりましたが、官庁では不祥事が続いているし、大企業では古い体質の会社が危機に陥っている。

佐藤 東芝など、非常にシンボリックですよね。

藤野 制度疲労が起きている。だからそこへ行きたいという若い人たちが減り、優秀な人がコンサルに行ったり、ベンチャーに行ったりするようになっています。

佐藤 タマがよくなったのですね。

藤野 早稲田や慶應、地方の有名校の人たちもいますが、偏差値が高いだけではなく、先を見る力や、ある種の公共心を持っているなど、逸材が行くようになったんですよ。

佐藤 国のため、社会のために働く気持ちがある人ですね。

藤野 それにこの20年で、ベンチャーを得意とする投資家や弁護士、会計士が揃い、金融庁も経産省もソフト面での整備を行っています。ですから2040年くらいには、日本の時価総額上位100社のうち2割以上が、これから出てくるベンチャーに取って代わられると思います。

佐藤 激動の時代になりますね。

藤野 いまのダイナミックな変化をうまく捉えた人たちにとっては非常に充実した20年になるでしょう。逆に崩される人たちにとっては地獄の20年です。ポジションによって幸福度が大きく違ってくる。だからみんながハッピーになれる2040年というわけではないですね。

日本が変わるチャンス

佐藤 その過程では、どんな業種が伸びていきますか。

藤野 私は全業種で伸びていく会社があると思っています。どの業種にも古い会社がありますから。当然DX(デジタル・トランスフォーメーション)を組みこんでいくことになりますが、新しい価値観、新しい切り口で事業を作り直せば、食品であろうが、バイオであろうが、海運業であろうが、どんな分野でも伸びていく会社が出てきます。

佐藤 それはベンチャーに限らない。

藤野 そうです。既存の古い会社の2番手、3番手から、代替わりをきっかけに出てくることがあると思います。かつて中小証券会社だった松井証券がネット証券を切り拓いたようなことが、さまざまな分野で起きてくる。

佐藤 業界1位だと全方位で守らなければなりません。でも2位以下なら一点穴を見つけて突破すればいい。

藤野 半導体業界では台湾のTSMC(台湾積体電路製造)というファウンドリー(受託製造)企業が登場して、業界全体の勢力図を大きく変えつつあります。業界1位のインテルは設計から製造まで行いますが、TSMCは製造に特化して受託生産だけです。一見、下請けのように見えますが、設計をしないため技術流出の可能性がなく、注文が世界中から殺到し、急成長を遂げています。同じことが、自動車業界で起きないとも限らない。EV車の受託製造に特化した会社が生まれて、トヨタを脅かす可能性もあると思います。

佐藤 それは面白い。逆転の発想ですね。

藤野 そもそもこの1~2年の株価を見ても、東証1部2部よりもマザーズの会社の方が上がっています。アメリカでもニューヨーク証券取引所よりナスダックの会社の方が上がっている。

佐藤 この20年間で会社の入れ替えがどんどん起きる。そうなると、会社をうまく潰せるようにしないといけないですね。

藤野 それは面白い視点ですね。起業家にとって失敗は価値ある経験で、次の挑戦に生きてきます。

佐藤 ただ、中小企業がお金を借りると、経営者は個人で連帯保証をしないといけない。会社を潰すと生活できなくなります。だから潰せないし、再チャレンジもできない。

藤野 その問題はあります。そうした制度面から離れて言えば、潰すにはある種のオーナーシップが必要だと思いますね。潰さないのもオーナーシップですが、その事業を止めるのも、まさにオーナーの決断になります。

佐藤 会社は創業者の理念を具体化したものですからね。

藤野 2代目、3代目だと続けることが目的化するケースがあります。何のためにその事業をやっているのか、そのミッションやビジョンが大事で、そこを常に見ていれば、潰すべき時には潰せるはずです。

佐藤 大企業となると、もう自分たちには潰しきれないというか、自分たちで作り上げたものに縛られて動けなくなっている感じもします。

藤野 ただこのコロナ禍によって、日本のさまざまな矛盾が表に出てきました。コロナがなく、昨年普通にオリンピックを開催しインバウンドで景気が良くなっていたら隠れたままだったろう問題がはっきりしました。

佐藤 だからもう延命措置は取れないわけですね。

藤野 古い体質、古いやり方、例えば年功序列だったり、男ばかりが偉くなったりする会社はどんどん否定されていくでしょうね。いま伸びているのは、新たな生活様式であるステイホームの中で仕事を行い、フラットなコミュニケーションをする会社です。そういう会社は圧倒的にITベンチャーに多い。コロナ禍にうまく対応できなかったことで、日本の制度疲労は白日のもとに晒されました。今こそ日本が変わるチャンスだと思います。

藤野英人(ふじのひでと) レオス・キャピタルワークス代表取締役会長兼社長
1966年富山県生まれ。早稲田大学法学部卒。90年野村投資顧問入社。96年にジャーディンフレミング投資・投資顧問、2000年にはゴールドマン・サックス・アセットマネジメントに移り、03年レオス・キャピタルワークス設立、08年「ひふみ投資」の運営を始めた。『投資家みたいに生きろ』『ヤンキーの虎』など著書多数。

週刊新潮 2021年5月27日号掲載

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