文在寅が“大敗北”の米韓首脳会談 ワクチン対象は軍人だけ、声明には「台湾」「北の人権」

国際 韓国・北朝鮮

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韓国と中朝の間にくさび

――そう言えば、日本も……。

鈴置:ええ、「韓国締め出し」作戦には日本も加わっています。茂木敏充外相は日経新聞のインタビューで「韓国などをQuadに加える考えはあるか」と聞かれ「枠組みそのものを広げようという議論はまったくない」とそっけなく答えました。「茂木外相『ミャンマーに弾圧停止働きかける』 一問一答」(5月21日)で読めます。

 ホワイトハウスのJ・サキ(Jen Psaki)報道官も5月20日の会見で「韓国がQuadに加わらないと、米国が望む中国封じ込めに大穴が開くのではないか」との質問に「Quadは4か国で構成するものだ」と冷たく答えています。

 ワクチンを貰いに来た文在寅大統領を、米政府はここぞとばかりに叩いて屈服させました。首脳会談後に発表した共同声明で、それが明らかになりました。

「北朝鮮の人権」と「台湾海峡の安定」を盛り込ませたのです。いずれも中国と北朝鮮の顔色を見て韓国が一切、言及してこなかった案件です。共同声明から引用します。

・We agree to work together to improve the human rights situation in the DPRK and commit to continue facilitating the provision of humanitarian aid to the neediest North Koreans.
・President Biden and President Moon emphasize the importance of preserving peace and stability in the Taiwan Strait.

「北朝鮮での人権状況の改善で合意した」以上、北朝鮮は文在寅政権に甘い顔はできません。「台湾海峡の安定の重要性を米韓の大統領が強調した」のは初めてですから、中国は韓国に厳しく出るほかありません。米国は「離米従北従中」路線をつき進む韓国と、中朝の間に鋭いくさびを打ち込んだのです。

バイデンからの圧力はあったか

――「台湾」まで入るとは……。

鈴置:確かに、「北朝鮮の人権」はともかく「台湾」まで入ると予想した人は少なかった。会談後の共同会見で、文在寅大統領に対し「バイデン大統領からの圧力はなかったか」との質問が出たほどです。

 文在寅大統領は「なかった」と答えましたが、その前にバイデン大統領が文在寅大統領に「Good luck」と声をかけました。「余計なことを言うなよ」とクギをさしたようにも見えました。

 中央日報の「文が、中国が神経を尖らせる台湾に関する質問を受けると…バイデン『Good luck』」(5月22日、韓国語版)で、その映像を視聴できます。

 朝鮮日報は「北の人権・台湾に言及した韓米共同声明、ぎくしゃくしていた両国関係を近づけた」(5月22日、韓国語版)で「首脳会談が予想以上に長引いたのは、両問題を巡り両国が激論を交わしたためと伝えられた」と書きました。

 一方、聯合ニュースは「時間延長は米国の厚遇の証」とのノリで報じました。「バイデン―文は『クラブケーキ』午餐会…『日本の菅のハンバーガー』と対照的」(5月22日、韓国語版)です。米韓首脳会談が「日米」と比べ20分程度長かったことに加え、出された食事がクラブケーキだったことから「日本よりも優遇された」と報じたのです。

 聯合ニュースは間接的な形ながら政府が資本を握っています。特に、青瓦台の記事は政権の意に沿ったものが多い。この政権は「米国の圧力に屈した」と報じられるのがよほど怖かったのだと思われます。

「弾道弾」規制解除で対中牽制

――文在寅大統領にとって、いいニュースはなかったのですか?

鈴置:ワクチン関連で言えば「サムスンバイオロジックスのコロナ・ワクチン受託生産」です。委託者は米モデルナ。両社は5月22日、文在寅大統領の立会いの下、ワシントンで基本合意書(MOU)を結びました。

 生産といってもサムスンがモデルナの原液供給を受け、瓶詰めする方式です。韓国政府は第3四半期から生産開始と明かしていますが、どれぐらい韓国内に回せるかには言及していません。

 文在寅政権が唱え始めた「韓国をワクチン生産のハブ(中心地)にする」政策の一環です。しかし、直ちに現在のワクチン不足に寄与する可能性は低い。

 安保関係では韓国のミサイル保有に制限をかけてきた「米韓ミサイル指針」の完全撤廃です。文在寅大統領が米韓首脳会談後の共同会見で明らかにしたのですが、最後に残っていた制限「射程800キロ」も取り払ったのです。

 文在寅政権は「軍事主権の独立」と自画自賛しています。ただ、米国の対中牽制の一環との見方が一般的です。

 米軍は中国の中距離弾道弾に対抗するため、水面下でアジアの同盟国にその保有を呼び掛けています。そして、800キロの射程では北朝鮮全域はカバーできますが、北京には届かないのです。

 韓国は2020年6月に射程800キロの弾道弾の実験に成功しました。射程を延ばすのは容易と見られています(「日本への毒針? 原潜保有を宣言した文在寅政権 将来は『核武装中立』で米韓同盟破棄」参照)。

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