文在寅が“大敗北”の米韓首脳会談 ワクチン対象は軍人だけ、声明には「台湾」「北の人権」

国際 韓国・北朝鮮 2021年5月24日掲載

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「毒杯を空けるな」と中国

――保守派もようやく枕を高くして寝られる?

鈴置:そんなに簡単な話ではありません。中国はこのまま黙って見過ごしはしないでしょう。中央日報の記事の最後の1文が以下です。

・米中対立構図の中で韓国の戦略的スタンスを維持する問題は依然として難題として残る可能性が高いという慎重論も少なくない。

 米韓共同声明に「台湾」が入るかもしれない、との情報を中国は直前に察知したようです。そこで中国共産党の対外威嚇メディア、Global Timesが5月21日、「Hyping Taiwan question is US’ ‘wishful thinking’ in statement with South Korea: expert」を載せました。

「台湾」が米韓共同声明に入るなんて米国の宣伝工作に過ぎない――と強気に出たのです。ただ、韓国にクギを指しておく必要もあると判断したのでしょう、同じ日に社説「US prepares a trap for South Korea in White House summit」も掲載。

「韓国よ、米国の罠にかかるな」と見出しを打っておいて、本文では「台湾問題という中国の核心的利益に触れるなら、それは毒杯を飲むのに等しい」と韓国を脅したのです。

属国にメンツを潰された

――でも、韓国は毒杯を空けてしまった……。

鈴置:属国扱いしている韓国が自分に逆らうとは、中国は信じられない思いだったでしょう。そこで、「韓国は米国に完全に従ったわけではない」との、負け惜しみの見解を打ち出しました。

 翌5月22日にGlobal Timesが載せた「Wording in joint statement the greatest degree of consensus Washington, Seoul can reach on Taiwan-related issues: observers」は「米韓共同声明は東シナ海や台湾に言及したが中国を名指ししなかった」と強調。

 さらにバイデン大統領が「Good luck」と述べたくだりを紹介しながら、次のように書きました。

・文はバイデンから圧力をかけられたと公開の席で認める代わりに、より繊細な答をした。「中台の特殊な関係を考慮しながら韓米はこの問題で共に動くことで合意した」と語ったのである。

 文在寅大統領が「中台の特殊な関係」を強調したのから見て「中国の内政問題」に深入りしたくないのが韓国の本音だ、との理屈です。

 しかしGlobal Timesが何と言い訳しても、韓国が「台湾」に言及したのは事実なのです。いくら米国の圧力が原因とは言え、「属国風情」からメンツを潰された中国も放ってはおけないでしょう。

李朝末、再び

 中央日報も朝鮮日報も5月24日の社説の結論部分は恐ろしく似ていました。いずれの保守系紙も「米国側に戻った」と大喜びしつつ中国の報復に右往左往することにならないか、懸念を表明するものでした。韓国語版の結論部分を翻訳します。

・中央日報「韓米同盟強化を再確認した首脳会談、実践につながるよう」=今回の会談結果に中国が反発することは十分に予想できる。それに対しては毅然とした姿勢で中国に説明せねばならぬ。米国にはこう言い、中国には別の言葉を発しては双方から不信を買うほかない。
・朝鮮日報「ミサイル・Quad・技術、韓米同盟正常化の出発点となるよう」=米国にはこう言い、中国にはああ言う式に、行ったり来たりすれば国家の信頼が崩壊する。相手によって言葉を変えることを「均衡外交」とは言えない。

 19世紀末から20世紀初めにかけ大国の間を右往左往して、最後には滅んだ李氏朝鮮。韓国人は今、100年前の苦い歴史を思いだしているのです。

鈴置高史(すずおき・たかぶみ)
韓国観察者。1954年(昭和29年)愛知県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。日本経済新聞社でソウル、香港特派員、経済解説部長などを歴任。95〜96年にハーバード大学国際問題研究所で研究員、2006年にイースト・ウエスト・センター(ハワイ)でジェファーソン・プログラム・フェローを務める。18年3月に退社。著書に『米韓同盟消滅』(新潮新書)、近未来小説『朝鮮半島201Z年』(日本経済新聞出版社)など。2002年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

デイリー新潮取材班編集

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