「さざ波」「笑笑」はNG では「負け組」は? コロナ禍で気を付けたい口のきき方

国内 社会

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 内閣官房参与で経済学者の高橋洋一氏のツイートに対して、一部の野党が厳しく批判をして、国会で総理の見解を問うような事態となっている。

 問題になったのは、新型コロナの感染者数に関する5月9日付のツイート。

「日本はこの程度の『さざ波』。これで五輪中止とかいうと笑笑」

 日本と世界各国の新型コロナウイルス感染者数の推移を示したグラフと共に発信したこのツイートに反発した人が少なからずいたのである。反発する側の主張をまとめると、次のようなことになる。

「朝日・毎日・東京」と「読売・産経」とで異なる反応

「世界各国と比べれば感染者数は少ないかもしれないが、それでも多くの人が亡くなっているのだ。そういう事態を『笑笑』と言うこと自体、不謹慎で不見識だ。そんな人物が内閣官房参与をやっていいのか」

 この件、新聞の反応はいつものように「朝日・毎日・東京」と「読売・産経」とで異なる。

 読売新聞、産経新聞は共に小さなベタ記事扱いのみだった。

 一方で、もともと安倍前総理とも近いとされる高橋氏を快く思っていないであろう「朝日・毎日・東京」は積極的に扱う方針のようだ。

 朝日新聞は政治面で複数回扱っていて、高橋氏に対して批判的なニュアンスが見え隠れする。

 たとえば「日本の状況は『さざ波』」という見出しの記事(5月11日朝刊)は、

「首相は大型連休中の今月4日に高橋氏と首相公邸で面会した。国内の死者数は1万人を超え、自宅待機中に死亡する事例も続出している」

 と締めくくられている。

 記者の主観は書かれていないが、野党と同様「死者が1万人も出ているのに、『笑笑』と書くような人と、首相は連休中も会っていたんですよ、皆さん!」と言いたいのだろうということが伝わってくる。

 毎日新聞は、記事以外に社説で「国民感情を逆なでするような発信」とストレートに批判している(5月12日)。

 東京新聞は「こちら特報部」コーナーで大きく取り上げ、「『さざ波という言葉が軽率すぎて、理解できない。こういう認識を持つ人が政権中枢に関わっていることに、不安を感じざるを得ない』という大学教授のコメントを掲載している(5月12日)。

 高橋氏のツイートの主旨は、あくまでも感染者数を比較すれば日本は世界の中では極めて少ないままで、あまり慌てないほうがいい、というようなことだろう。また、「さざ波」は別の専門家の比喩をそのまま使ったのだという。

 ただ、「笑笑」という表現は、反発を買いやすいものだったのは事実。ご本人もそこは反省しているらしく、11日には、

「世界の中で日本の状況を客観的に分析するのがモットーなので、それに支障が出るような価値観を含む用語は使わないようにします。」

 とツイートをしている。

コロナ社会の“勝ち組”“負け組”?

 新型コロナに限らず、死者や被害者が出ていることについての発言、発信には注意が必要なのは間違いない。

 かつてある有名キャスターは、震災の現場を上空からレポートする際に、そこかしこから上がってくる煙を見ながら「温泉場のよう」と表現して、猛烈な批判を浴びたことがあった。今ならば「大炎上」間違いなしだろう。

 高橋氏の件が話題になっている時期に発売された「週刊朝日」の5月21日号には、こんな見出しの特集記事が掲載されている。

「コロナ社会の『勝ち組』『負け組』」

 コロナ禍で売り上げを伸ばした業種・サービスとダメージを受けた業種・サービスとを分類して取材した内容だ。コロナで売り上げが減少した業種・サービスとして、以下のものがあげられている。

「宿泊・観光、航空・鉄道・バス、遊園地・レジャー、百貨店、外食・居酒屋、クリーニング店、スーツなどフォーマルウェア中心のアパレル、カラオケ、ブライダル・葬儀サービス、オフィス・駐車場レンタル、映画・音楽・イベント関連、新聞・雑誌・テレビ・ラジオなど既存メディア向けの広告」

 こうした業種・サービスが「負け組」ということのようだ。

 コロナ禍でまったく同じ業種なのに優劣が出ているという場合ならば、「勝ち組」「負け組」という比較にも意味があるかもしれない。たとえば業績を伸ばしたファストフード店と、下げたファストフード店というようなケースはそれにあたる。ただ、新型コロナの場合は、ほとんどの国民が被害者といってもいい状態である。

 とりわけやむなく休業を強いられているような人たちからすれば「負け組」という表現は気分の良いものではないだろう。また、「勝ち組」とされている業種・サービスとて手放しで現在の状況に浮かれているわけでもなかろう。

 毎日新聞の言葉を借りれば、「笑笑」と同様、「勝ち組」「負け組」もまた「感情を逆なでするような表現」と言えるかもしれない。

プロも頭を悩ませる、深刻な話題を伝えるときの表現

 フリーアナウンサーの梶原しげるさんは、暗いニュース、深刻な話題を伝えるときの気遣いや苦労について、度々著書で触れている。たとえば、よく耳にする次のような表現、どこが問題かおわかりだろうか。

「自殺者の数は去年並の3万人の大台に迫る勢いです」

 梶原さんはこう解説する。

「自殺という悲惨な出来事を伝えるのに、まず『去年並』は無いでしょう。この言葉からは『自殺』という事態を受け止める真剣さや深刻さのかけらも感じることができません。『まあ、だいたい去年程度ってとこかな』というなおざりな空気に満ち満ちた言葉で、自殺のことを記述する時に使うべき単語ではない、というのが私の見解です。

『3万人の大台に迫る勢い』とは、3万人突破の新記録を期待しているような表現で不適切と言わざるを得ません。私なら『自殺者の数は、去年の3万人を上回るのではないかと懸念されています』『心配されています』と言いますが、いかがでしょうか」(梶原しげる著『口のきき方』より)

 そして、話し方のマナーとして、こうアドバイスをする。

「つらく悲しい、ネガティブな、マイナスな出来事を語るには、それを喜んだり、期待したり評価したりする表現は慎む」(同)

 1年以上の我慢、苦労で多くの人にフラストレーションがたまっており、ただでさえギスギスしがちな状況が続いている。

 口を開く前に、メディアはもちろん、個人も肝に銘じておくべき教訓だろう。

デイリー新潮編集部

2021年5月15日掲載

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