本田選手に称賛集まる「言い間違い」を指摘された時の理想の対応は

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人の恥をぼうろする

 サッカー日本代表の本田圭佑選手の「言い間違い」をめぐる対応が称賛を浴びている。「清々しい」を「きよきよしい」と読み間違えていた(覚え間違えていた)ことを指摘されると、素直に間違いを認めて「お恥ずかしい。漢字が苦手で。でも、もうしっかり覚えました」とツイート。

 この対応そのものが清々しい! と評判になったのだ。

 なぜこれが多くの関心を集めたか。もちろん本田選手の現在の人気もあるのだが、誰にとっても身近な問題だという面もある。

 後輩や部下ならまだしも、目上の人、地位のある人の言い間違いを指摘するのは難しい。気を使う。下手に言うと、逆ギレする人もいる。だからこそ本田選手の対応は称賛されたのだ。

 この「言い間違い問題」について長年、考えてきたのがフリーアナウンサーの梶原しげるさん。著書『そんな言い方ないだろう』の中では「言い間違いをどうする?」と題した章まで設け、経験も踏まえながら、様々な言い間違いやその注意法を考えている。以下、同書から抜粋して引用しよう。

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イチヤ報いる

「年俸」は「ネンポウ」であって「ネンボウ」ではない。しかし、いまだにこの間違いは横行しています。
 このへんの言い間違いについて、アナウンサー同士ならば後輩にすぐ説教できます。それはその間違いが即業務上の問題になるからです。後輩が「わが社は上意げだつ型ですよね」と言ったら「解脱はオウムだ。上意は下達(かたつ)に昔から決まってんの」というわけです。
「久しぶりの台風で、ここ僻地(へきち)の寒村では、道路のろけんに水に浸かった車もずらり勢ぞろいで壮観です。とこうえ浸水の家もぐっと増えてきて、死者の数も2桁、いや3桁のいきおいです」などという現場中継をした馬鹿アナウンサーを即刻首にすることに異議を挟むものもいないでしょう。
「久しぶり」と台風が来るのを待ちわびてどうする! 僻地、寒村とお前に言われたくないわ! ろけんじゃなくって路肩(ろかた)だろう! 壮観ってことは車が水に浸かるのがいい眺めってことか! とこうえってひょっとして床上(ゆかうえ)のことか? 亡くなった尊い命を1桁2桁と桁でいうのか! というふうに、どこから見ても駄目な表現の連続だからです。
別にしゃべりが職業ではなくても、年の差、立場の差によっては間違いを正すことはまったく問題なくできるはずです。
「ダイエットにはお坊さんのいちじるいっさいがいいんですってね」なんてことを言う若いもんには「それを言うならいちじゅういっさい(一汁一菜)だよ」と叱り飛ばすこともできましょう。

 ところが相手が目上の場合はどうしたらいいのでしょうか。
 東海林さだおさんの人気漫画「タンマ君」にこんなエピソードがありました(週刊文春2005年1月20日号)。
 部下の武勇伝をきいて「つまりそこでキミがイチヤ(一矢)を報いてやったわけだ」と得意げに言う上司。もちろん、イチヤではなくイッシです。
 言われた部下は上司の言い間違いを指摘したくてもじもじ。周りのほかの社員も事態の成り行きに注目する。ああいうとき、部下の身分で、まちがってるなんていえないもん。そのまま見逃すんだろうな、と高をくくっていたら、やおらその部下が勇気を奮って「はなはだ申し上げにくいことなんですが」と上司に間違いを告げる。
 緊迫した空気の中、部下はこう言います。
「その場合の一矢(いちや)は、ヒトヤと読むのが正しいんじゃないでしょうか」
 すると上司が「あ、そうなの」と素直に納得。その様子を見た周りの社員がずっこけると言う内容です。
 本人も間違えたとはいえ、ヒトヤの部下の勇気には敬服します。相手の言い間違いは気になるけど立場上言えない。つらいものです。

フウサ精神

 私も、番組のゲストとの会話で何度となくそんな場面を経験しました。
 某人気ミュージシャンは、「社会をふうさするような姿勢をもちつづけたいです」と言いました。「封鎖? 社会を封鎖っことは鎖国か? ポップスやってて鎖国って??」
 どうもこれは「風刺」のことだと理解できたときには別の話に移っていました。フウサ精神に富む彼は続けて、
「いろんな悪みたいな部分をぼーろしてくみたいな、ですね」
「ぼーろ」がどうも暴露らしいと気づくのに5秒はかかりました。この方、来日を「らいじつ」と言ったり、幕間(まくあい)を「まくま」と言ったり、ほんとにはらはらさせてくれました。相手が若い芸人さんやアイドルならばまだ冗談まじりに注意できるかもしれません。でも何せ社会についてものしんす、いや物申す立場の人にはなかなか軽い調子では注意できません。

モリバの危険

 年末防犯キャンペーンのためラジオスタジオにお見えになった警察の偉い方。この方は「我々幹部もこの時期は視察のためモリバにでかけていくこともあります」とおっしゃいました。
これも2度3度と聞いているうち「盛(さか)り場(ば)」のことをいっているらしいとわかりました。もう一回出てきたら「警察業界用語で盛り場をモリバと呼んでいるんですか?」と聞いてみようかとも思ったのですが、残念ながらその後はその単語は出てこず、確かめることができませんでした。
 テレビを見ていてもこのようなやり取りは日常茶飯事ですね。先日も某辛口コメンテーターが「この人って意外とドウガオなのね」と言って、周りがあわてている様子を目にしました。「それを言うならドウガン(童顔)でしょ」と突っ込む人はいませんでした。
 また、ズバリと物をいうトークで人気のお方が「人間、紆余(うよ)屈折の人生を歩んでこそ一人前なのよ」なんてことをおっしゃっていました。これも、「先生それはひょっとして、紆余曲折ですかねぇ」と、捨て身で忠告する者はいませんでした。ズバリ物言う人がスバリ言われることを歓迎するとは限らない、いや逆のことが多いからです。私も言えないなあ。

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 本来、間違いを指摘してもらえるのは有難いこと。そのくらいに思っていたほうがいいのだろうが、恥ずかしさからついヘンな反応をしてしまいがちなのも確か。

 しかし、実は「へえ、そうだったんですね」と素直に聞いたほうが、よほど印象はいい。そのことを本田選手は示してくれたのである。

デイリー新潮編集部

2018年7月6日掲載

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