王貞治、江夏豊が語っていた…往年の名選手の信じられない“超人的感覚”

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“キラキラ光った空気”

 77年に.340の高打率をマークし、“巨人軍史上最強の5番打者”と呼ばれた柳田真宏も「ボールの縫い目が見える」とほぼ同様の体験をしている。現在、八王子市でスナック「まむし36」を経営する柳田氏は回想する。

「北陸遠征の大洋戦だったかな。打席でボールを見送ったとき、汚れているように見えたので、球審に『替えてほしい』と要求したら、捕手の、確か辻恭彦さんだったと思うけど、ボールをクルクル回し、縫い目の近くに黒いボツボツが付いていたのを発見して、『こんなの、よく見えるな』と驚いてたよ。(先輩の外野手)末次(利光)さんも、集中力があるときは(視界に)ボールだけが見えたと話していた。その感覚を持続できれば、常に3割打てると思って努力したんだけど、良い状態は長く続かなかったね」。

 当時のデータを調べたところ、捕手は辻ではなかったが、77年5月17~19日の北陸シリーズが該当するように思えた。柳田は3試合すべてで安打を放ち、12打数6安打1本塁打を記録している。

 このほか、空気がキラキラ光って見えるという感覚も存在するようだ。スポーツライター・近藤唯之氏の『引退 そのドラマ』(新潮社)によれば、全盛期の江夏豊は右打者に相対したとき、そこに投げれば、ほぼ抑えられる外角の縦の線がキラキラ光って見えたという。同書では大洋の捕手・土井淳が二塁ベース上に見える“キラキラ光った空気”を目印に送球し、一塁走者の盗塁を封じたエピソードも紹介されている。

 今回紹介したのは、いずれも昭和期の話だが、現在活躍中の選手たちも、ボールが止まって見えたり、キラキラと光る空気を体感している可能性は十分ある。この種の“超人的感覚”は、最高の技術を追い求め、日夜血の滲むような努力を続けてきた“選ばれし者”のみに贈られる“野球の神様”からのご褒美かもしれない。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2020」上・下巻(野球文明叢書)

デイリー新潮取材班編集

2021年5月3日掲載

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