月9「イチケイのカラス」、原作漫画のモデル“元東京高裁判事”はドラマをどう見たか

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入間の経歴はあり得ない?

 入間の経歴のリアル度はどうか。入間は高校中退で司法試験に合格し、まず弁護士になった。「あり得ない」と言っている人も見受けられるが、これは十分可能だ。まず学歴不問の司法試験予備試験をパスし、さらに司法試験に合格すれば良い。もちろん難易度は高いものの、大学を卒業していない司法試験合格者はさほど珍しくない。

 また、法科大学院の中には大卒者ではなくても入学できるところがある。大学を出ていない人が入学を許される条件はさまざま。「司法試験予備試験の短答式試験に合格している人」などである。そして法科大学院修了後、司法試験を受ければいい。

 入間のように弁護士から裁判官になれるのかというと、これも可能である。1988年に始まった制度で、「弁護士任官」と呼ばれるものがある。2020年10月現在、65人の弁護士任官者が実在する。

 4月期ドラマは古くから各局とも力を入れるが、このドラマは出演陣からして豪華。竹野内の演技はさすがベテランだ。硬派な役も得意とするものの、やわらかい人物である入間もうまい。全く危なげない。

 映画「小さいおうち」(2014年)でベルリン国際映画祭銀熊賞(女優賞)を獲った黒木はTBS「凪のお暇」以来、1年半ぶりのドラマ。この人が演じる千鶴だけでも一見の価値がある。

 ドラマの冒頭、イチケイに赴任してきた千鶴は嫌味な女性にしか見えなかった。なんでもかんでも規則最優先。その上、高飛車。自分の歓迎会を断るなど協調性もゼロ。なにより、正義の追求より、自分の出世を重んじるところが鼻に付いた。顔は無表情で、態度はつっけんどんだった。

 ところが、徐々に入間の影響を受け、裁判官の本当の役割に気づき始めると、表情がやわらかくなった。かもし出す雰囲気すら変貌し、親しみ易く感じさせた。

 僅か1時間ほどで同じ人物の印象を様変わりさせてしまうのだから、惚れ惚れするほどうまい。千鶴が本音を言う際、思わず口にするお国言葉の長崎弁も絶妙。間違いなく日本で屈指の女優だ。

 ほかにも小日向、草刈、主任書記官・川添博司役の中村梅雀(65)と主演級が勢揃い。ストーリーも練り上げられているから、世帯視聴率も13.9%は納得である。

 月9は前作の「監察医 朝顔」も全話平均世帯視聴率が約11.7%に達した。連続ヒットになりそう。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。

デイリー新潮取材班編集

2021年4月12日掲載

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