月9「イチケイのカラス」、原作漫画のモデル“元東京高裁判事”はドラマをどう見たか

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 刑事裁判官たちを描いたフジテレビの新連続ドラマ「イチケイのカラス」(月曜後9時)が面白い。初回世帯視聴率も13・9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と上々。さて法曹関係者はこのドラマをどう見たのか? 原作漫画のモデルとなった元東京高裁部総括判事で弁護士の木谷明氏(83)に聞いた。

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 刑事裁判の有罪率は99.9%だが、木谷明弁護士は裁判官時代、30件以上の無罪判決を下した。こう書くと、ピンと来る向きは少なくないのではないか。

 物語の舞台である東京地裁第3支部第1刑事部(イチケイ)の部総括判事・駒沢義男(小日向文世、67)も30回を超える無罪を出した。駒沢は木谷弁護士の分身である。漫画家の浅見理都氏は木谷弁護士を取材した上でドラマの原作を描いたのだ。

 イチケイに所属する主人公の型破り裁判官・入間みちお(竹野内豊、50)のモデルも木谷弁護士。入間は初回の傷害事件の裁判で、被害者・江波和義代議士(勝村政信、57)の不正をあぶり出し、法廷をどよめかせた。慣行など気にしない。

 一方、木谷弁護士は1997年に発生した東電OL殺人事件において、一審無罪の外国人Gさんの勾留続行を図った検察に対し、不可の決定を下し、法曹界に衝撃を与えた。その後、別の判事が勾留を認めてしまうが、2012年の再審でGさんは無罪が確定した。

 木谷さんがモデルになっていることで、このドラマの方向性がうかがえる。エンターテインメント色が濃いものの、目指しているのは真実の正義を描くことだろう。骨太のリーガルドラマになる。

 イチケイに配属された融通の利かないマジメ人間・坂間千鶴判事補(黒木華、31)の成長劇も見もの。ちなみに判事補とは裁判官に任官して10年未満の人である。

 木谷弁護士もこのドラマを評価している。

「裁判官を主人公としたドラマはほとんどないですからね。過去には『家裁の人』(TBS、1993年)くらいでしょう」(木谷弁護士)

 映画「半落ち」(2004)では裁判官・藤林圭吾(吉岡秀隆、50)の葛藤が描かれたが、主人公ではなかった。これまでのドラマの主人公は弁護士か検事ばかりだった。

 弁護士か検事を主人公とすれば「勝った」「負けた」が描けて、見せ場を作りやすいのが大きな理由だ。裁判官には勝ち負けがない。弁護士と検事を主人公とするリーガルドラマが多いのは世界共通の傾向である。

「嫌がらせ」はもっと巧妙

 次にこのドラマのリアル度はどうだろう。受理した起訴の件数より判決を出した件数のほうが多ければ「黒字」、判決のほうが少なければ「赤字」とされていたが、これは本当だ。赤字になると、良い顔をされない。ただし、1人の裁判官が常に250件を抱えているとされた点については、「これは人によって異なる」(木谷弁護士)という。

 入間は法廷で被告の大学生・長岡誠(萩原利久、22)に向かって自分の名を名乗った。これに千鶴は目を丸くした。確かに名乗る判事は珍しい。もっとも木谷弁護士は「そうしてもいいんじゃないですか。むしろ名乗ったほうがいいかも知れない」と語る。

 公判が進むうち、入間は最高裁判事の日高亜紀(草刈民代、55)から圧力を掛けられた。入間が傷害事件の審理をストレートに行わず、長岡被告が主張する動機面を掘り下げていったからだ。

 亜紀は入間に対し、この裁判から降りるよう告げた。だが、入間は拒否。このような形の圧力があるのかと木谷弁護士に問うと、「あり得ません」と断じた。裁判官は独立した存在であり、いかなる干渉も受けないからだ。

 ただし、上部からの嫌がらせはある。「(ドラマより)もっと巧妙な形で行われる」(木内弁護士)。人事が使われる。例えば、無罪判決を出した裁判官がその後、ずっと地方暮らしを強いられることがある。出世コースから外されることも。また国などを相手取った行政訴訟で、国などを敗訴とすると、人事面で不遇をかこつとよく言われる。

 そう考えると、このドラマによって裁判や裁判所人事により関心が高まることは悪いことではないだろう。おかしな裁判、人事がやりにくくなるからだ。

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