篠塚利夫「疑惑の本塁打騒動」、野茂交代で痛恨被弾…忘れがたき“開幕戦ホームラン”は
開幕戦史上初の逆転サヨナラ満塁弾
十中八九負けと思われた劣勢から奇跡の逆転サヨナラアーチが飛び出したのが、94年4月9日の西武vs近鉄である。
西武打線は8回まで近鉄・野茂英雄に12三振を奪われ、無安打無得点。野茂と張り合い、初回から力投を続けてきた郭泰源も0対0の9回、石井浩郎に痛恨の3ランを浴び、ついに勝負あったかに見えた。
その裏、ノーヒットノーラン負けの屈辱まで「あと3人」の窮地に追い込まれた西武は、先頭の清原和博が初安打となる右越え二塁打を放ち、ようやく呪縛から解き放たれる。
四球とエラーで1死満塁とチャンスを広げ、この日3打席とも四球で、野茂と相性の良い伊東勤に打順が回ってきた。この場面で近鉄・鈴木啓示監督は、守護神・赤堀元之を投入する。前年伊東を7打数無安打に抑えた実績からだが、3点リードで無失点の野茂を降板させたのには、西武ベンチも驚いた。
当然、赤堀に対し、左の代打を進言する声も出たが、右から左に吹きつける風を見た森祇晶監督は、「右打者のほうがいい」と伊東をそのまま打席に送った。後続につなぐことだけを考えてバットを短く持った伊東だったが、ファウルで粘るうちにタイミングが合ってきた。そして、カウント2-2から赤堀の8球目が高めに甘く入ってくるところを見逃さず振り抜き、左翼席に開幕戦史上初の逆転サヨナラ満塁弾。くしくも、伊東にとって通算1000本目の安打でもあった。
「野球選手やってて本当に良かったと思いましたね。あの年はウチが優勝したから、『開幕戦で1年分の仕事をしたな』と冷やかされました（笑）。僕自身もあの試合が一番印象に残っています」と伊東は現役引退時に回想している。
打たせてくれた信頼に見事応えた伊東に対し、鈴木監督に「開幕戦は野茂と心中や」と言われながら、約束を反故にされた野茂は、同年限りで近鉄を去り、メジャーへ。ここでも開幕戦のドラマが回り回って、新たなストーリーが生まれている。
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