「埼玉愛犬家連続殺人」2人の子供が明かす両親の意外な素顔 「私には甘い優しい父親でした」

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食い違う証言

 2件目の事件のあった7月21日、「今夜、高城んちに行ってるから、10時頃迎えに来てくれ」と関根に言われ、風間はクレフを運転して現場に行き犯行時に居合わせてしまったという。その恐怖から関根に命じられるまま、2人の遺体を載せた車を運転。死体解体の一部も手伝ってしまった。これが死体損壊遺棄にあたることは、風間自身も認めている。

 7月21日は、数十万人で賑わう熊谷のうちわ祭りの最中であった。事件のあった93年、中学3年生の和春は、屋台でたこ焼きを焼くバイトをしていた。

「友達の親が露天商をやっていて、中学2年の時は売るのを手伝っただけ。中学3年の時、お客さんに出すたこ焼きを初めて焼いたんです。うちわ祭りは、7月の20、21、22って毎年決まっていて、初日は、お店は出せない。初めて自分で作らせてもらって持って帰ったんで、21日と分かるんです」

 午後10時頃、高城さんの家に出かける前の風間と一緒に和春は、持ち帰ったたこ焼きを食べていた。

 一方で、関根や中岡が供述し判決も認めたのは、風間も含めた3人でカリーナバンで、高城宅に行ったという内容だ。

「3人で一緒に行ったっていうなら、お袋と自分で、たこ焼き食べるのはできないから、それはないと思うんですよね。自分、すぐに寝ちゃったんで、その後何してたかは分かんないですけど」

 和春は裁判にも出廷して証言した。事件から7年が経っていた。その後離婚に至るが、その時は結婚していた。

「結婚する時、彼女の家のほうから、親と縁を切ってくれって言われたんですよ。どこでどうバレて、子供がいじめられるか分かんないからって。分かりました、って、婿になって、向こうの姓を名乗りました。裁判の証人も、向こうの親からは止めてくれって言われたんですけど、一回だけでいいから出させてくれって頭を下げて行ったんです」

 だが、身内ということもあり、和春の証言は判決では退けられた。

関根から持ち掛けられた「取引」

 希美は成人式を迎えた時、叔母から「何があっても、お父さんがいたから、あなたがいるんだよ」と言われ、手紙を書いた。関根からの手紙には、「お母さんを帰してあげる」という言葉もあった。

「でも、逞しかったあの父が、変わり果てていたらどうしようって心配で、何回か手紙のやりとりをしただけで、会いには行けずじまいでした。数年後に母に面会に行った時に、父にお金を差し入れたんです。でも後日、東京拘置所の差し入れ係から連絡があって、受け取り拒否ということで戻ってきました」

 実はこれに先立つ01年9月、関根は風間に対して、100万円くれれば本当のことを話す、と持ちかけていた。「自分は被害者と金銭的解決を考えていたが、返す金など無い、と言って風間が殺害を言い出した」と、関根は取り調べ時に供述していた。これが裁判で、風間が殺人に関与しているという、大きな根拠の一つとされていた。

 関根から風間への手紙には、食料品や日用品に要する事細かな金額が記載されていた。拘置所では支給される以外のものを、自費で購入することができる。手紙には、こんな言葉も添えられていた。

「終生一度の初めてで最後の懇願。餞別か香典の代わりとして考えて下さい」

「懇願」には「とりひき」と振り仮名があった。そして、こう続く。

「関根は片道を前に行くだけです。親御殿や娘と再会出来ますよう一命をかけ申し上げる一心です」

 だが、金と引き替えの証言では裁判で信用されないと判断し、風間は話には応じなかった。希美からの差し入れを受け取って、求めていた金額とのあまりの落差に、関根は「これが答えか!?」と激怒、受け取りを拒否したのかもしれない。

「悪魔に魂を売った女三人」

 09年、最高裁で上告棄却され、関根と風間への死刑判決は確定した。風間は再審請求を行っていたが、昨年12月11日、最高裁で棄却され、新たな再審請求を行っている。

「お父さんから本当のことを聞きたい」

 そんな思いから、希美は昨年、再び関根に手紙を書いた。確定死刑囚に手紙を出せるのは、親族と拘置所が認めた知人だけだ。関根は東京拘置所の係官から、「娘の名前を言ってみろ」と言われたという。本当に娘からの手紙か、確証がない。関根は、娘がすでに結婚しているかどうか知りようがなく、苗字が変わっているかどうかも分からなかった。

 戸籍謄本など、親子であることを証明する書類を希美が提出。文通が始まった。

「最愛の娘を待ち焦がれてます、早く会いに来てください、みたいな手紙が最初は来たんです。でも、面会に行く勇気が湧かずにいると、すねて怒りの手紙に変わる。母や叔母さん、おばあさんを罵倒するような内容になるんです」

 そこには、「悪魔に魂を売った女三人」などと書かれていたという。

 関根は、事件のことは答えてくれないが、犬の飼育のことは答えてくれる。どこかから、真実を知る糸口を見つけたいと希美は願っている。希美と和春にとって、事件はまだ終わっていないのだ。

註)風間博子の母親は2016年に、妹(希美の叔母)は2020年に逝去した。風間の第2次再審請求は今年の1月14日最高裁で棄却され、第3次の再審請求が現在行われている。

深笛義也(ふかぶえ・よしなり)
ノンフィクションライター
1959年東京都生まれ。週刊新潮に「黒い報告書」を70本以上書いてきた他、ノンフィクションも多数執筆。著書に『エロか?革命か?それが問題だ!』『女性死刑囚』『労働貴族』などがある。2017年、本記事をもとにした書き下ろし『罠』(サイゾー)を刊行した。

2021年3月27日掲載

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