「埼玉愛犬家連続殺人」2人の子供が明かす両親の意外な素顔 「私には甘い優しい父親でした」

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コンクリートの上で正座させられ

「私には甘い優しい父親でした。飼っていた九官鳥に『お父さん、バーカ』とか覚えさせても、怒らない。『うちの娘が』とかお客さんに話して笑ってる」

 希美はそう顧みる。そんな様子を見る和春は辛かった。

「出かける時でも、妹は関根の頭をペシペシ叩きながらゲラゲラ笑ってて、関根もニコニコしてる。だけど俺がなんか言おうもんなら、すげえ怒鳴ったり、蹴っ飛ばす。だから、怖くて何も言えない」

 関根の和春への虐待は、激しさを増す。

「親の財布から金盗んで遊びに行っちゃったことがあるんです。そん時は、すっ裸にされて外に出されて、玄関先のコンクリートの上で正座させられて、膝の上にブロック3、4個載せられた。ホースで水もかけられた。それは何度もやられましたね。2階の部屋から引きずり出されて、階段を突き落とされたことも何度もある。荒川大橋に連れて行かれて、飛び降りて死ねって言われたこともある」

「お母さんを殴らないで」と叫ぶ妹

 関根は、風間にも暴力を振るっていた。母親と一緒の部屋だった希美は、そこに関根が乱入してきたことを覚えている。

「部屋に入ってきた父が母をつき飛ばして、戸棚の中の通帳なんかを持って行ってしまったんです」

 和春も、同様の場面を隣室で聞いた。

「自分が部屋で寝始めてる時、関根がお袋の部屋に行って、いきなり妹の泣き声が聞こえたと思ったら、関根の怒鳴り声がして、凄くお袋を殴ってた。『お母さんを殴らないで』って妹が叫んでる。怖くてずっと布団にくるまってました」

 風間の顔に痣ができていたり、頬が腫れているのを、二人は何度も見ている。

 だが、彼を知る多くの人々が、関根は楽しい男だったと語っている。

「自分はアフリカに11年、アラスカに8年、シベリアに2年いた。青年期からの半生を炎熱、酷寒の地で過ごした」

「シマウマの血を体に塗りたくってライオンの群の中に突進したり、瞬く間に牛1頭を白骨化させる15万匹の凶暴なピラニアが群遊する沼に素足で入ったりして、英国BBC放送をして『ジャパニーズ・ターザン』と呼ばしめた」

 そんな大ボラを吹く関根をおもしろがって、つきあう人々は多かった。一方で、アラスカン・マラミュートを日本に広めた男として、犬の世界では成功者として認められてもいた。

連続殺人者の特徴

 DV(ドメスティック・バイオレンス)の研究者らによれば、DV加害者は、暴力を振るう時以外は、親切で働き者、子供思いで礼儀正しく、ウイットに富んで話し上手である、という。これは、ユーモアがあり、強面の風貌だが腰が低かった、という関根にも当てはまる。

 結婚前の風間の目に、関根はそのように映ったのだろう。結婚する時の気持ちを、風間は控訴審公判で述べている。

「明るくて力強く、当時4歳の、自分の子供にも優しかったから、いい父親になってくれると思った」

 一方で、殺人者の顔を隠し持っていたと思われる関根だが、海外の連続殺人者らを見ると、平穏に社会生活を送り、人間関係も良好、知的で愛嬌があったりもする。これも、関根の姿に近い。

妻に刺青を入れさせて…

 関根に出会う前の風間は、東京都北区にある中央工学校で測量を学び、卒業すると熊谷市内の測量事務所に勤めた。土地家屋調査士として独立しようとしていた父親を、いずれ手伝おうと考えてのことだ。76年に銀行員と結婚するが、夫の女性問題で82年に離婚している。

 地道に暮らしてきた風間の目には、放埒で野性的な関根が、新鮮で魅力的に映ったということは想像に難くない。

 結婚すると、風間は両肩に刺青を入れる。希美はそのことを思い起こす。

「母は父を慕ってました。父の写真を持ち歩いていたほどです。父に合わせて無理して煙草を吸うようになったり、刺青も入れていました」

 和春は違った見方をする。

「慕って入れたんじゃなくて、逃げられないように、関根に無理矢理入れられた。そう、お袋から聞きました」

 関根は風間以前に、2人の女性との結婚歴がある。彼女たちにも関根は刺青を入れさせていた。関根自身も、背中にライオンの刺青を入れている。

 関根との紐帯として入れた刺青が、しだいに風間にとって、枷鎖のような重みを持ってきたのかもしれない。

 関根によるDVが目立つようになってからは、どんな家族だったのか。

「おうちで食卓を囲んだことっていうのが、ほぼない。記憶にあるのが1回くらい。外で食べる時は従業員さんも一緒で、話すのは仕事のことでした」

 希美の言葉に、和春も同様に語る。

「ばあちゃん(風間の母親)が来て作ってくれる食事を食べるんで、家族一緒というのは、ほとんどなかったですね」

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