事件現場清掃人は見た 自殺した夫が発見された浴室で妻が口にした“信じられない言葉”

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 自殺や孤独死などで遺体が長期間放置された部屋は、死者の痕跡が残り悲惨な状態になる。それを原状回復させるのが、一般に特殊清掃人と呼ばれる人たちだ。2002年からこの仕事に従事し、昨年『事件現場清掃人 死と生を看取る者』(飛鳥新社)を出版した高江洲(たかえす)敦氏に、練炭自殺した30代男性のケースについて聞いた。

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 特殊清掃の現場では、思いもよらぬことが起こる。これまで数多の現場を経験し、ちょっとやそっとのことでは驚かないはずの高江洲氏は、新築分譲マンションの浴室で恐ろしい体験をした。

「30代の男性が浴室で練炭自殺したので、清掃して欲しい……。葬儀社からの依頼でした」

 と語るのは、高江洲氏。

「死後4日経って発見されたので、遺体の腐敗はそれほど進んでいませんでした」

 浴室には、練炭が燃えた後の焦げた臭いが残っていたという。

“夜叉”

「清掃自体は、それほど手間はかかりませんでした。いつものように淡々と仕事を進めていると、背後から視線を感じたのです」

 高江洲氏の後ろには、30代くらいの女性が立っていたという。

「彼女は浴室に向かって、いきなり『畜生!こんなところで死にやがって!』と怒鳴り始めました。その表情は、亡くなった人を悼むというのではなく、抑えきれない憎しみで歪んでいるように見えました。まさに“夜叉”そのものです。その場で凍り付き、身の危険さえ感じました」

 女性は、亡くなった男性の妻だった。

「彼女は、本当に怒り狂っている感じでした。『ひとりで死にやがって』と、夫がこの世から逃げたことが許せないようでした」

 リビングにあるテーブルには、携帯電話会社やガス会社、電力会社、クレジット会社からの督促状が散乱していた。

 高江洲氏は、彼女から事情を聞いてみた。

「ご主人は、会社を経営していたそうですが、事業に失敗して多額の借金を抱えてしまったといいます。マンションのローンもあり、夫婦の生活は大変だったようです。借金の返済ができず、マンションも手放すことになりそうだった。とりあえず、妻と子どもは彼女の実家に引っ越したそうです。その数日後、ご主人が自殺したということでした」

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