まるで平成の太宰治 「因果応報」離婚の小室哲哉がそれでも愛される理由と「本命」の相手

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 先日KEIKOさんとの18年にわたる結婚生活に終止符が打たれた小室哲哉さん。3年前に看護師の女性との不倫関係がスクープされた後、離婚協議が進んでいたという。当時の会見で不貞は否定したものの、高次脳機能障害を抱えた妻の介護に疲れていたと語り、けじめをつけるために引退をすると宣言した。

 KEIKOさん、前妻の吉田麻美さん、そして華原朋美さん。ツツジの蜜を吸っては無残に捨てる少年のように、身近な女性の「旬」を吸いつくして捨ててきた男。稀代の音楽家でありながら、小室さんには常にそのイメージがつきまとう。若い恋人をプロデュースしてデビューさせ、セレブカップルとして世間をにぎわす。でもいつしか他の女の影がちらつき破局。女性たちは反動のように心身を病んだり、お金でもめる事態を迎える。

 傑出した才能、ストイックに自分を追い込む性格、そしてだらしない女関係。小室さんはまるで、平成の太宰治のようである。破滅型の天才が見せる物憂げな表情に、母性本能豊かな女性たちが引きつけられるのか。それとも金と権力に群がる女と、若い女好きの節操のない男なのか。2017年にミッツ・マングローブさんの番組に出た時、「性欲が強いでしょ」と茶化されても、小室さんは冷静に答えていた。いわく、「性欲というより征服欲が強い。悪ぶっている女性を素敵な女性にしたい」とのこと。金でなびく女性ではなく、気が強くて歯ごたえのある女性が好きなのだろう。「でも初めてかなわなかったのがKEIKO」とのろけていたが、まさか離婚するとは想像できなかったに違いない。

 確かにKEIKOさんへの信頼は相当なものだった。それは2008年に起こした詐欺事件後、小室さんが書き下ろした『罪と音楽』を読んで感じる。TKブームの中で音楽作りに追われ、生きる実感を失っていた毎日にKEIKOさんが光をくれた、死んでもいいという投げやりな毎日から引き戻してくれたとつづっている。彼女には弱みや本音をさらけだせたこと、裁判の時も笑顔で支えてくれたこと。贅沢三昧と報じられたが、彼女からねだられたことは一度もなく、自分の見栄でブランド品を買い与えていたこと。最初から最後まで、感謝と信頼が記されている。ただ、一読して思ったのは、「この人が本当に愛しているのは、音楽だけだな」ということである。すべては、より良い音楽と出会うために。それも承認欲求や野心からというより、ただひたむきに高みを目指す殉教者のような風情すらある。自分の健康やお金など二の次にして、勉強を重ね、試行錯誤を繰り返す。きっと彼の本命は、最初から最後まで「音楽」なのだ。

globeの曲で何度も繰り返される「さみしさ」 TKソングと因果応報という離婚劇の皮肉

 ただ、音楽という形のないものに全てをかける人生には、疲れや虚しさもあるのは確かだろう。象徴的なのがglobeの曲で繰り返し使われる「さみしさ」である。作詞は小室さんだけでなく、KEIKOさんやマーク・パンサーさんが加わることも多いが、圧倒的に数多く使われている言葉が「さみしい」「さみしさ」なのだ。

 TKブームはバブル崩壊後と重なる。就職氷河期、援助交際、カラオケブームにケータイ小説……時代の中にあった、あきらめや孤独感。誰かと繋がりたいのにうまく繋がれない、強がっていても空っぽな心を抱える人に寄りそう音楽。だからglobeは90年代を確かにとらえ、聞く人の耳と心を撃ち抜いた。それはずっと、報われない生き方やぬぐいきれないさみしさを肯定していたからではないだろうか。

 それは小室さんの人生とも少し重なる。生きる実感さえ無くすほどの仕事に追われても、届かないチャート。一緒にいる相手を見つけても、しっくりこない自己肯定感。小室さんの本命が音楽である限り、抱えるさみしさは終わりがない。

 だから今回の離婚劇に、「どっちも因果応報」という声が上がったのは興味深い。小室さんのこれまでの女性関係、そしてKEIKOさんも略奪婚と噂されていたことに由来する。因果応報は裏を返せば、正しいことをしていれば報われるという価値観でもある。でも、TKブームの中心にいたのは、努力したって報われないことを知っていた人たちだった。彼らへの応援歌を死ぬ気で作っていたTKが、仕事と私生活の因果は別とはいえ、因果応報と叩かれる皮肉。さみしさは、ますます深まったことだろう。

 今や新入社員の応援ソングは、「WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーヴメント~」ではなく、「うっせえわ」と言うべきか。あきらめを抱えた連帯より、拒絶にくるんだ自己憐憫の方が共感を得る時代。それでも、さみしい人はいつの時代もゼロになることはない。さて平成の太宰は、令和のさみしさを描けるか。秋元康氏の後押しにより、昨年7月に乃木坂46への楽曲提供で復帰した小室さん。彼の生き様は好きでなくても、彼の作る曲は好きな人は多い。少なくとも私は、その一人である。KEIKOさんの健康と復帰を祈るとともに、小室さんの想いに音楽の神様がどう応えるのか、もう一度だけ見てみたい。

冨士海ネコ

2021年3月4日掲載

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