水泳「長崎宏子」が語る“人生最大の挫折”とは 「子どもには、あんな思いさせたくない」(小林信也)

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赤ちゃんは水と仲良し

 アメリカ留学、JOC勤務。出産、育児などを経て、いまはベビースイミングのスクールを主宰している。

「ゼロ歳(6カ月)から3歳まで親子で受け入れています。お水が大好きなお子さんたちを育みたい。水の恩恵をたくさん受けたら健康体になる。免疫力がつく。お母さんの愛情をたくさん受けて育つことで、親子のいい関係を育てられる……。

 赤ちゃんは元々お水と仲良くなれる性質を持って生まれてきています。ところが生後すぐ沐浴するとき、耳の穴をふさいで、顔になるべくかけない、お水ってお顔についたら嫌よねって教え込んでしまいます。本来は、水ってこう付き合えば楽しいよって。そうすれば赤ちゃんはすぐに受け容れるし、潜ってもいける。お子さんが楽しいと感じてくれれば、私たちが教えることは何もありません」

 親は子どもを制約する方向に動きがちだ。

「その象徴がお水の中。もちろん危険もあります。でも上手に付き合うことで、お水から受けられる恩恵はすごくたくさんあるんです」

 いまも若々しく、あのころの面影をそのまま湛える長崎宏子が目を輝かせて話してくれた。水中に入ると宇宙とつながるとも聞く。

「水の中で、子どもが何かと対話しているように感じることがあります。競泳の選手時代には考えたことのない水泳の魅力に、子どもを授かって初めて気が付きました」

 3人の愛娘は成人し、それぞれの道を歩んでいる。

 水泳には、速く泳ぐ以外にも無限の魅力と恩恵がある。五輪後の暮らしの中で、彼女は金メダルより大切な「覚醒の時」に出会えたのではないだろうか。

小林信也(こばやし・のぶや)
1956年新潟県長岡市生まれ。高校まで野球部で投手。慶應大学法学部卒。「ナンバー」編集部等を経て独立。『長島茂雄 夢をかなえたホームラン』『高校野球が危ない!』など著書多数。

週刊新潮 2021年2月25日号掲載

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