不倫の加害者にはなりたくない… 会社の部下に恋する49歳男性の苦悩

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好きな女性と一緒にいられるだけで幸せなのに

 何を持って「不倫」と規定するかは個人差がある。夫に敷く「ここからが不倫」というラインを既婚女性に聞いてみると興味深い。「ふたりきりでランチはいいけどディナーはダメ」とか、「仕事の流れでたまたま食事をするならしかたがないが、示し合わせてランチに行くのはNG」とか。だいたい女性のほうが相手に対してのラインが厳しい。

 自分の事となると「ふたりでお酒はOK」「挨拶のキスくらいなら不倫には入らない」という女性もいる。中には「ホテルへ行っても行為がない限り不倫とはいわない」と断言する女性もいて、それも一理あるかと考えさせられる。

 一方、男性には、己に敷く「ここからが不倫」というラインがあるのだろうか。

「僕はやはり行為をしたら不倫だと思っています」

 そう言うのはイサオさん(仮名=以下同・49歳)だ。結婚して18年、16歳になるひとり息子がいる。1歳年下の妻は、この息子に全精力をかけて育てていると、少し皮肉交じりに話す。

「小さい頃から過保護でしたね。過保護で過干渉だから、何度も僕とケンカになりました。もっと自由にさせたほうがいいというと、金切り声で『そんなことじゃ、あの子がダメになる』と言いつのる。小学校に入るとすぐ中学受験を意識し始めたようで、息子はよく泣きながら勉強させられていました。『辛かったらしなくていいんだぞ』とこっそり声をかけたこともあります。でも5年生くらいになると『お母さんが悲しむから、中学に合格できるようがんばるよ』と。健気ですよね、子どもって」

 妻の熱心な応援により、息子は中高一貫教育の名門校に合格。その発表直後、妻は息子を前に言った。

「これからは東大目指してがんばらないとね」

 イサオさんはそれを聞いて愕然としたという。

「息子がかわいそうになって『今言うことじゃないだろ』と思わず言ってしまいました。すると妻は『今だから言うのよ、ここで気を抜いたら負けるの。あなたみたいになるの』って。ああ、妻はそう思っていたんだと本音を聞いた気がしました」

不倫に悩んでいた妻と結婚

 そもそもイサオさんが結婚したのは、長年の友人だった妻が不倫に悩んでいたからだ。妻子ある10歳年上の男性とつきあっていた妻は、いつか彼が離婚してくれると信じて5年もつきあっていたのだという。

「『騙されているに決まってる。オレと結婚しよう』と口説いたんです。彼女が別れを告げたとき、相手の男は『もうじき離婚できるのに』と言ったそうです。それでいったん妻は僕との結婚をやめると言いだした。『わかった。半年待つ。彼にも半年の間に進展がなかったら別れると言ってほしい』と彼女に告げました。半年後、彼女は『やっぱり彼には離婚するつもりがない』と泣いていた。それで僕と結婚したんです。確かに僕はエリートではないけど、妻のことを真剣に愛してきたつもり。だけど彼女にとっては、結婚してみたら頼りにならない、出世もしない男だとがっかりしたのかもしれませんね」

 妻がつきあっていた既婚男性は東大出のエリートだった。だからこそ彼女は東大にこだわり、息子にすべての期待をかけたのかもしれない。

 中学に進学した息子に、イサオさんは「好きなことをやれ」と言った。スポーツでもゲームでもいい。好きなことを見つけてほしい。それがイサオさんの願いだった。

「実は僕には趣味と言える趣味がないんですよ。昔、野球をやっていたから野球は好きだけど熱中して見ているわけでもない。だから息子には、『これさえやっていれば楽しい』と思えるものを持っていてほしかった。それを仕事にしなくていいんです。好きなものがあれば絶望したときでも、なんとか這い上がれると思うから」

 当時、妻の態度に絶望していたイサオさんは、自分を救うものはないと気づいたのだという。だからこそ、息子には何があっても「これがあればいい」と思えるものを見つけてほしかった。

「中学で息子はバレーボールを始めました。でも妻は『サッカーとかラグビーにすればいいのに』と。子どもの意志を尊重しない姿勢を危惧し、話し合おうとしましたけど『あなたに言われたくない。私はひとりで息子を育ててきたんだから』と。息子が小さいとき、僕は仕事が忙しくて確かにきちんと面倒を見てはこなかった。その負い目につけ込んで、妻は僕に口出しさせなかった」

 イサオさんの言い方に恨みがこもっているわけではない。妻の悪口でもない。淡々と,少し哀しげに彼は語り続けた。今まで誰にも話したことのない、妻とのたくさんの亀裂を、傷口を触るかのようにそっと話しているという印象だった。

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