「巨人」を見返す大活躍も…「人的補償選手」が新天地でみせたリベンジ劇

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 大物選手のFA移籍の陰で、人的補償としてチームを去る選手もいる。プロテクト漏れという制約上、1軍半レベルの若手・中堅選手が選ばれる例が多く、今季も、巨人にFA移籍した梶谷隆幸の人的補償として27歳の内野手・田中俊太がDeNAに移籍した。

 巨人時代の田中は、1年目の2018年に99試合に出場し、シーズン後半には二塁のレギュラーも務めた。昨季は吉川尚輝にポジションを奪還され、出場48試合にとどまったが、二遊間の補強を急務とするDeNAでは、出場機会も増えるとみられている。田中自身も「驚いているけど、求められて入団させていただいた。チャンスと捉えて、チームに貢献できるよう頑張りたい」と新天地での活躍を誓っている。

 そして、過去にも移籍先で大きくはばたいた人的補償選手は何人も存在する。そんな成功者たちの足跡を紹介したい。

 まず、新天地で水を得た魚のように確変を遂げたのが、08年に新井貴浩の人的補償として広島に移籍した赤松真人だ。阪神最後のシーズン、07年は出場わずか28試合ながら、チーム2位の8盗塁を記録した韋駄天ぶりが、広島の補強戦略と合致した。

「評価していただいて光栄。持ち味の足を生かし、頑張りたい」と決意を新たにした赤松は、型にはめられた感があった阪神時代とは打って変わり、広島では伸び伸びと思う存分プレーする。

 翌年4月29日の巨人戦でプロ1号を放つと、翌日の試合でも2号を記録し、足以外でもチームに貢献。プロ1号と2号が2試合連続の初回先頭打者本塁打になったのは、プロ野球史上初の快挙だった。

 同年は規定打席にわずかに届かなかったものの、125試合に出場し、打率.257、7本塁打、24打点、12盗塁を記録。09年はファン投票でオールスター初出場をはたし、初の規定打席に到達。さらに、10年8月4日の横浜戦では、村田修一の左中間へのあわや本塁打という当たりを、フェンスによじ登ってスーパーキャッチ。このプレーは米国ヤフーのトップ記事になり、“世界の赤松”をアピールした。16年オフに胃癌が発見され、手術とリハビリを経て、チームに復帰した“不屈の男”としても、ファンの記憶に残る選手になった。

 赤松と同じ08年に人的補償がきっかけで30歳を過ぎてブレイクしたのが、福地寿樹だ。12年間在籍した広島時代は、03年に20盗塁を記録したものの、出場機会に恵まれず、06年に青木勇人との交換トレードで西武へ。西武では2年連続25盗塁以上を記録し、外野の一角を掴みかけたが、栗山巧の台頭で、07年後半以降、代走や守備固めが多くなった。

 そんな矢先、07年の盗塁数28を、「チームトップの飯原(誉士)の23より多い」と高く評価したヤクルト・高田繁監督が、石井一久の人的補償に指名。そして、このトレードが、ベテランの域に近づいた32歳の野球人生を劇的に変えた。

 移籍1年目は、ラミレスの巨人移籍でひとつ空いた外野のポジションをかち取り、1番打者としてプロ15年目で初めて規定打席に到達。打率.320、42盗塁で初の盗塁王に輝く。翌09年も42盗塁でタイトルを獲得。2年連続盗塁王は、国鉄、サンケイ時代も含めて球団初の快挙だった。

 FA宣言したほうの選手が「人的補償」と皮肉られるほど、新天地で大成功を収めたのが、14年、大竹寛の人的補償で広島に移籍した一岡竜司だ。

 12年にドラフト3位で巨人に入団した一岡は、2年間で1軍登板は13試合にとどまり、防御率4.69。22歳の若手がプロテクトから外れるという結果を招く。

 一方、シーズン中から一岡に目をつけていた広島は、「速い球、切れのある球を投げられるのが一番。伸びしろがある。いい選手を貰った」(松田元オーナー)とプロテクト漏れの幸運を喜んだ。はたして、一岡は移籍1年目に31試合に登板し、2勝0敗2セーブ16ホールド、防御率0.58でリリーフエースに。

 17年には、自己最多の59試合に登板し、6勝2敗1セーブ19ホールド、防御率1.85でチームのV2に貢献。オフに2500万円アップの年俸5300万円(推定)で契約更改し、巨人・大竹の年俸(5250万円)を上回ったことから、「逆転現象」と話題を呼んだ。

 一岡流出から3年後、歴史は繰り返され、巨人は4年目の若手・平良拳太郎を山口俊の人的補償で失うことになる。

 沖縄・北山高からドラフト5位で巨人に入団した平良は、16年4月7日の阪神戦でプロ初先発初登板。3回まで4者連続三振を奪うなど、無失点と好投したが、再登板の機会がないままシーズンを終えた。

 若手投手が不足するDeNAは、変則サイドから140キロ台の速球とカットボールを繰り出す“斎藤雅樹2世”を高く評価。伸び盛りの若手がプロテクトされていなかったのは、一岡に続く巨人の大失態だった。

「突然のことでビックリした」と戸惑った平良だが、すぐに気持ちを切り替え、移籍後初登板となった同年5月10日の中日戦で、5回を3安打1失点に抑え、プロ初勝利。「いろんな人の支えがあったから勝てたと思う。こうやって使っていただいて、勝つことが(巨人とDeNAの)どちらに対しても恩返しになる」と両球団に感謝した。

 一方、1年目に不祥事で出場停止になった巨人・山口は、実質2年働いただけで、19年オフにメジャー移籍。これに対し、移籍4年目の昨季、開幕ローテ入りをはたし、4勝を挙げた平良は、今季は規定投球回数到達と二桁勝利を目標にしており、まさに“逃がした魚は大きい”である。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2020」上・下巻(野球文明叢書)

週刊新潮WEB取材班編集

2021年1月20日掲載

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