巨人の「ポスト原」問題…桑田と阿部、次期監督はどちらがふさわしいのか?

スポーツ 野球

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 ストーブリーグもすっかり落ち着いたと思われた1月中旬、プロ野球界に大きなニュースが飛び込んできた。桑田真澄氏が今季から巨人の一軍投手チーフコーチ補佐に就任することが発表されたのだ。

 桑田氏は巨人で20年、メジャーリーグのパイレーツで1年プレーし、2008年3月に引退。その後は解説者として活動しながら、早稲田大学大学院、東京大学大学院でスポーツ科学の研究を行い、一時は東京大学硬式野球部の特別コーチとBCリーグの信濃グランセローズで臨時コーチをそれぞれ務めている。常駐のコーチに就任するのは初だが、このニュースにプロ野球ファンだけでなく、多くの球界OBからも期待の声が挙がっている。

 桑田氏の肩書は先述した通り「一軍投手チーフコーチ補佐」。宮本和知・投手チーフコーチに次ぐ立場で、コーチ陣の序列としては決して高いものではない。しかし、一軍スタッフの中で最も大物OBであることは間違いないだろう。他のスタッフが発表された後のこの時期にあえて、追加のポストまで用意して招聘したことからも、球団や原辰徳監督の並々ならぬ期待が感じられる。

 そして、この人事で影響が出てくる可能性があるのが巨人の次期監督問題だ。01年に長嶋茂雄監督が退任して以降。19年間のうち14年間は原政権となっており、間で指揮を執った堀内恒夫、高橋由伸はリーグ優勝を成し遂げることなく球団を去っており、完全に“原監督頼み”の事態が続いているというのが現状だ。そんななか、後継者として一番手とみられているのが、阿部慎之助二軍監督である。

 昨年、元木大介ヘッドコーチが虫垂炎でチームを離脱した際には代わってベンチに入り、ドラフト会議では育成選手を指名する時には「監督席」に座っている。ドラフト1位の生え抜き選手で、司令塔とも言える捕手として長年プレーし、通算2000本安打を達成するなど輝かしい実績を残していることを考えても、既定路線と考える関係者、ファンは多いだろう。

 だが、阿部二軍監督の指導法については、チーム内から疑問視する声も出ているのは確かだ。指導者として一年目となった昨シーズン。大学チーム相手に敗れたオープン戦や、オフに行われたフェニックスリーグで“罰走”を課したことが大きな話題となった。年明けに行われたチャリティートークショーでは「罰走というと時代錯誤。“期待走”とかにした方がいい」や、「どれだけ調子に乗らせるかがこっちの仕事」と、昨年までとは違う方針を打ち出すコメントも残している。今季は指導方針が変わることも考えられるが、指導者としての手腕はまだまだ未知数という状況だ。

 一方で、桑田氏は、「現役引退後の数年間は野球を勉強する期間」と位置付けており、その通り国内でもトップクラスの教育機関で学んでいる。また、現役最後にアメリカに渡り、メジャーでのプレーを経験したということも指導者としての引き出しを増やす意味で、大きなプラスとなったはずだ。誰もが大学やアメリカで学べば、名指導者になるという単純なものではないが、その基礎となる部分をどちらが有しているかは明らかだろう。

 阿部二軍監督だけではなく、日本の場合はスター選手が引退するとそのままコーチや二軍監督、場合によっては一軍監督といった重要なポストに就くケースが少なくない。周囲に経験のあるコーチを配置することで、勉強してもらおうという狙いはあるとはいえ、最低限のコーチングの知識などは学ぶ必要があるのではないだろうか。

 そのような声は確実に大きくなっており、当の巨人も少しずつ体制は見直されているように見える。

 今季から二軍のヘッドコーチには、韓国での指導経験が豊富な金杞泰が就任した。また、三軍監督に就任した二岡智宏は巨人のOBではあるが、現役引退後は一度ユニフォームを脱ぎ、業務委託という形で国際部の外国人選手調査にかかわったほか、BCリーグの富山で監督を務めるなど指導者の経験を積んでいる。

 原監督自身も指導者経験は巨人一球団のみだが、現役引退後は一度解説者として活動した経験がある。同じ球団でユニフォームを着続けるよりも、一度外から野球を見ることによって得たものも大きかったのではないだろうか。

 プロ野球の一軍監督という立場は、勉強したから就任できるものではなく、成功する方法も一つではないが、現在のプロ野球界を考えると、現役時代の実績とカリスマ性だけで務めることが難しくなっている。「球界の盟主」の座をソフトバンクに譲り渡したとも言われる巨人。その復活に向けて、どのような決断を下すのか。原監督退任後の最大の注目ポイントと言えるだろう。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

週刊新潮WEB取材班編集

2021年1月18日掲載

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