「日本人の7人に1人」知られざる“境界知能”とは 悲惨な事件の背景にある問題

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日本人の7人に1人

 そうであるならば、メリットのない犯罪に簡単に手を染める説明はつきやすい。同書で紹介されている「ケーキの切れない非行少年たち」の特徴としては、たとえば以下のようなものがある。

 ・すぐにキレる
 ・思いつきで行動する
 ・人のせいにする

 これらは特徴のごく一部だ。しかしこの容疑者の行動を合理的に解釈するには有効だろう。つまり、本来なら世話になっている相手に対して「すぐにキレ」て、後先を考えずに「思いつき」で殴りかかる。「金銭トラブル」云々というのも「人のせい」に等しい(彼の収入はほとんど無かったはずだ)。

 誤解してはならないのは、こうした解釈は決して彼らを甘やかすために行っているのではないという点だ。ただし、仮に知能に問題があるのだとすれば、通常の受刑者とは別のプログラムを用意する必要はある。児童精神科医である著者の宮口氏は、医療少年院で勤務していた時に「コグトレ」という認知機能向上への支援として有効なトレーニングを自ら開発したが、これは一定の効果を見せているという。

 宮口氏が指摘しているのは、こうした人々には「認知の歪み」がありえるということ。つまり一般的な人と同じものを見て、聞いてもまったく別の受け止め方や解釈をしている可能性があるのだ。宮口氏は、彼らは「反省以前の問題」を抱えている、と指摘している。彼らに対して「不幸な生い立ちをバネにしている人もいる」「努力は報われる」といった常識的な説諭は必ずしも有効ではない。罰を受けるのは当然としても、その罰の意味を理解させること自体が難しいのだから。

 同書によれば、実はこうした「境界知能」の可能性のある人は意外と多く、日本人の7人に1人はそれにあたる可能性がある、という。もちろん、そうした人の中には、家族や社会とうまく折り合っている人も多くいる。それだけに、早めに(なるべく子供の頃に)そうした傾向に気づいて、トレーニングなどで周囲が支えることが重要だ、と宮口氏は述べている。

デイリー新潮編集部

2020年12月22日掲載

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