嘉風が故郷・佐伯市に4億8千万円賠償請求 内訳は?

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 昨年9月に引退した元関脇嘉風(よしかぜ)の中村親方(38)が、9月、故郷の大分県佐伯市を相手取って約4億8千万円の損害賠償請求訴訟を起こした。ずいぶん高額な請求だが、いったい何があったのか。まさか“どんぶり勘定”ではなかろう。その明細は?

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 昨年6月、嘉風は地元佐伯市のPRのため、自身が所属する尾車部屋の力士7人を引き連れて佐伯市内で合宿を行った。スポーツ紙の相撲担当記者が語る。

「合宿は6月18日から6日間の予定でした。訴訟の原因となった事故が起きたのは20日です。市内の渓谷で、嘉風は岩肌を身一つで滑り降りる渓流下り“キャニオニング”をやり、滝壺に飛び込んだときに右ヒザを負傷。ドクターヘリで搬送されて緊急手術を受けましたが、足首の麻痺などの後遺症が残った。直後の7月場所を休場し、そのまま9月に引退しました。その段階で、渓流下りで怪我したことを明かしたのです」

 引退会見では故郷への愛情を口にし、

「誰かを責めているわけではありませんし、誰も憎んでいません。市長からは“できる限りのことはする”と言ってもらった」

 と語っていた。

「田中利明市長は市の相撲連盟の要職を歴任しましたし、嘉風が小学生の頃から知っている大ファンなんです。5年前に市民栄誉賞を授与されている嘉風も、和解を望んでいた。補償問題について、双方の弁護士で話し合われたものの、話がまとまらず、提訴に至ったわけです」(相撲担当記者)

 人口7万人の小さな市では、本場所中、嘉風が勝てば花火が上がった。九州場所はバスをチャーターして市民の観戦ツアーが行われた。市を挙げて応援する郷土のヒーローが、高額な損害賠償を突きつけた形だ。

部屋を持つため

 請求額について、佐伯市文化・スポーツツーリズム推進課の担当者が説明する。

「内訳は、治療費や慰謝料、休業損害、後遺症による逸失利益です。いま言えるのは、双方の主張が食い違っているという事実。市として尾車部屋の合宿は誘致しましたが、キャニオニングは、市のPRの依頼ではありませんでした。当日は朝稽古を一般公開し、朝食後はオフ。その時間に嘉風関ご本人の希望で渓谷へ行かれたと認識しています。ですが嘉風関はPR活動中の、つまり“オン”の時間の事故と主張しているのです」

 嘉風と長年の付き合いがある大分県人会の関係者は、

「尾車部屋の合宿は市が誘致したから職員が付き添っていたけど、キャニオニングはあくまで、オフの時間の事故。和解がうまくいかなかったのも“事故が合宿の際に加入したスポーツ保険の対象にならなかったから”と聞いています」

 と明かし、声を潜めた。

「嘉風は、市側から内々に“訴えてほしい”と言われたそうです。“それで裁判所から賠償命令が下れば、市は税金から賠償金を払うことができる”といった提案だったようですが、彼は“佐伯には両親もいるし、迷惑はかけられない”と言っていました。なのに、訴えた。私は、提訴は彼一人の意向ではないと思う」

 嘉風の知人が話を継ぐ。

「コロナで断髪式が延期されて最後のご祝儀も入らず、お金が要るのは事実。彼はいま尾車部屋の部屋付き親方ですが、尾車親方はあと2年足らずで定年。部屋は元関脇豪風(たけかぜ)の押尾川親方が継承する予定になっています。彼はその豪風と、数年前にタニマチを奪い合って以来、折り合いが悪い。豪風の部屋付きは嫌なので独立したいのです。でも部屋を持つためには3億から4億かかる。すでに中村の年寄株を買うのに1億数千万使っています。このあたりを日本相撲協会なりタニマチなりに含められて上乗せして提訴したのでしょう」

 その上乗せ分を含め、訴状で細目を確認してみたい。

 治療費や慰謝料以外では、本来は40歳になる2022年まで現役を続けるはずだったので、その3年分の休業損害として2800万円。

 引退後に親方となり、43歳で自らの部屋を開設する予定だった。定年の70歳まで続ければ――そんな青写真をもとにした逸失利益として、約3億4600万円の請求。これには田中市長も仰天したに違いない。

 嘉風本人に提訴の真意を訊ねると、

「相撲協会に言われて訴えたとかではないです。裁判の件はお話しできません」

 と言うのみだったが、なかなかに生臭い明細である。

週刊新潮 2020年11月19日号掲載

ワイド特集「遅れてきた請求書」より

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