”連れ去り”の闇、3年間、毎月19万円を妻に払い続けても我が子に会えない男の苦悩

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連れ去り 我が子に会えない親たちの告白1

 ある日突然、妻や夫が子供を連れて家を出てしまう。その日から“制度の壁”が立ちはだかり、我が子に会えなくなる。日本ではこのような「連れ去り被害」が続出している。背景にあるのは、日本特有の「単独親権」制度だ。初回は、些細な夫婦ケンカがきっかけで、妻に3人の子供を連れ去られた40代サラリーマンの話を紹介する。

 ***

 月に1度、子供たちに手紙を書く。便箋はイラスト入りの子供向けのものだが、長女にはピンク、長男・次男にはブルーと、使い分けるようにしている。

 文体も変える。小5の長女ならば、もう常用漢字は読めるはずだ。小2と小1の長男・次男には、優しい漢字を用い、ルビも振ってあげねばならない。机に向かい、3人の顔を思い浮かべながら、彼らが喜びそうな話題を一字一句、丁寧に書いていく。最後に“おまけ”として入れる「クイズ」を考えるのが、彼の楽しみだ。

 あっかんべー と1000回いってから たべるものってなに?
 くちから だして みみに いれるものは なに?

 一緒にいた頃は、いつでも、こうして子供を喜ばせることができた。だが今の彼には、こんなたわいのないことすら叶わない。野崎剛(40代、仮名)が、3人の子供たちに手紙を送るようになって2年近くになる。

「最初は、文通に一縷の望みをかけていました。返事が届くようになれば、きっと状況は開けるだろうと」

 だが、そんな希望は萎んでしまった。20通近く手紙を出し続けているが、返事が来たことは一度もない。気づけば、子供たちに会えない日々も2年半以上になった。

 子供たちは手紙を読んでいると思うか? そう尋ねると、野崎は苦笑し、首を横に振った。

「おそらく、読んでいないでしょうね」

ある日突然、連れ去りは起きた

 始まりは、3年前の「風呂掃除」であった。野崎家では、最後にお風呂に入った者が湯船の栓を抜いて掃除する、というルールがあった。

「私は前日、仕事が長引いたため帰宅は遅く、家族の中で最後に風呂に入りました。ただ、初夏の時期だったのでシャワーだけで済ませ、湯船に湯が張られていることに気づかないまま、寝てしまったのです」

 翌朝、起きると妻が「なんで風呂を掃除していないの」と、烈火のごとく怒っていた。

「機嫌が悪いんだと思いました。こういう時、私はあまり相手にしないことにしていました。そして、黙って風呂場に向かい、掃除を始めたんです。ただ、その日の妻は怒りが収まらず、『そんなんで掃除しているつもり?』となじり始め、やがて『もう家を出て行って』と癇癪を起こしました」

 野崎もカッとなった。なんで風呂を掃除しなかったくらいで出ていかねばならないのか。家の頭金やローンは全て野崎が払っている。「あなたこそ出ていって」と言い返すと、朝から空気が悪くなった。

「和解できないまま、私は会社に向かいました。会社から仲直りするためのラインを送りましたが、妻の機嫌は収まらず……。悶々としたまま帰宅すると、もう家には誰もいませんでした。妻は子供たちを連れて実家へ帰ってしまっていたのです」

「連れ去り」が起きていた。だが、この時の野崎は、「連れ去り」という言葉も、その言葉の持つ重みも知らない。

「数年前に一度、同じようなことがありましたが、その時はホテルに一泊して帰ってきたので、今回もそのうち帰ってくるだろうと思っていました。が、その後いくら連絡を取っても、妻は頑なに帰ることを拒否。そして、離婚したいと言ってきたのです」

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