「コロナ×インフル」の予防にヨーグルト? “腸活”の驚くべき効果とは

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プロバイオティクス

 発酵食品を食べると、発酵食品中に存在する乳酸菌、その菌によってつくられた代謝物質、もともとの栄養成分と、三つの良いものを摂取できる。中でもヨーグルトは、「機能別」に選べるところがメリット。

「高血糖を改善したいなら、血糖値上昇を抑える効果の高い乳酸菌を取ったほうがいいですし、アレルギー症状を和らげたいなら免疫細胞によく効く乳酸菌を取ったほうが効率よく体質改善につなげられます。また、整腸作用や美肌効果を得たいなら大腸に棲みつくビフィズス菌を摂取したほうがいいですね」(同)

 ヨーグルトで乳酸菌を摂取する場合、作用は大きく二つに分かれる。一つは胃や小腸で働くことで免疫力などを高めるタイプ、もう一方は大腸で働き腸内環境を整えるタイプだ。基本的には各メーカーがうたう機能表示を信頼してよい。

 ヨーグルトは「腸内細菌の種類」、さらに「株」という単位の効果を実験で確認したものが、機能としてパッケージに記されている。例えば「明治ブルガリアヨーグルトLB81」は、LBが乳酸菌を意味し、81が「ブルガリア菌2038株」と「サーモフィラス菌1131株」の末尾番号を組み合わせたものだ。

 主な菌種と期待できる効果を表にしてみた。

「各メーカーはいろいろテストしながら、一番得意な分野の菌株を打ち出しています。ただ、『ピロリ菌を減らす』とうたっている商品でも、それしか効果がないわけではありません」(同)

 乳酸菌やビフィズス菌などの良い菌は「プロバイオティクス」(人体によい影響を与える微生物)といわれる。そのプロバイオティクスには、腸内環境改善、発がんリスク低減、免疫調節(インフルエンザ感染予防、花粉症軽減効果)などの報告が多数ある。どのヨーグルトを食べても、その基本的な作用が含まれているということだ。ただし大半は、2週間程度食した試験に基づいて商品化しているので、1~2週間は継続しないとその効果が期待できない。

 脳腸相関の観点から、うつ病を防ぎ、脳の機能を維持したいと思うなら、ビフィズス菌や乳酸菌を取るのが望ましい。森永乳業が独自に保有するビフィズス菌A1は、軽度認知障害(MCI)の認知機能を改善する作用があることが、今夏、科学雑誌で発表された。

「腸内環境を整えることで認知症を改善しようという取り組みは各国で行われています」と先の福田氏。

 また、乳酸菌は脳にかかるストレスを軽減できるという報告もある。その研究は、進級試験を控えた医学部生を対象に行われたもので、二つのグループのうち一方には実際の乳製品を、もう一方には偽(プラセボ)を摂取させた。すると進級試験が近づくにしたがって偽を摂取するグループでは、唾液の分析でストレスがあると増える物質が測定され、不調を訴える人が出現したのに対し、乳製品を摂取するグループはストレス値が抑制されたのだ。

 安倍晋三前首相が患ったことで知られる潰瘍性大腸炎もストレスが影響するとされるが、ビフィズス菌発酵乳を飲むと改善・軽減することが明らかになっている。

最強の食べ合わせ

 ところで日本人には牛乳、ヨーグルト、チーズなど動物由来の乳製品が合わないと聞いたことがある方も多いだろう。実際におなかがゴロゴロしてしまう人がいるかもしれない。乳製品に含まれる「乳糖」が分解できないために起きる症状で、「乳糖不耐症」と呼ばれるが、改善策はあるのだろうか。管理栄養士の望月理恵子氏に聞いた。

「乳幼児期には乳糖を分解するラクターゼという酵素の活性が強いのですが、年とともにこの酵素が減ってしまうので、乳製品を取ると下痢などの不調に陥りやすくなります。ですがヨーグルトであれば、そこに含まれる乳酸菌が乳糖の30~40%をあらかじめ分解してくれるため、腸への負担が少なく、乳糖不耐症の人であっても腹部不調を起こしにくいと思います」

 さらにヨーグルトは「完全食」であるともいう。

「タンパク質、ビタミンA、B、D、カルシウムなど、さまざまな栄養素が含まれています。足りないのは食物繊維とビタミンCぐらいですが、これもキウイやバナナなどの果物を加えることで補えます」(同)

 乳酸菌にプラスして「オリゴ糖」と「食物繊維」を一緒に取ることも、腸内環境改善に大きく貢献する。良い働きをする菌をプロバイオティクスと呼ぶと述べたが、これを増殖し、元気にさせる成分を「プレバイオティクス」という。プレバイオティクスの代表がオリゴ糖と食物繊維だ。オリゴ糖は豆製品やごぼう、アスパラガス、たまねぎなどの野菜に多く、ここには食物繊維も含まれるため一石二鳥。キウイもオリゴ糖と食物繊維を共に含む。つまりキウイヨーグルトであれば、全て一緒に取れてパーフェクトなのだ。

 冬にかけては特に、これらを意識して取ると免疫アップにつながるという。食物繊維を取ると腸内細菌によって短鎖脂肪酸がつくられ、「免疫細胞に作用する」(福田氏)ためだ。コロナとインフルエンザのダブルの流行が懸念されるこの冬は「ヨーグルト+オリゴ糖+食物繊維」で免疫を高め、感染症を追い払いたい。

「ただ食物繊維が豊富だからといって、例えばさつまいもばかり食べていたら、その栄養素をうまく使える菌ばかりが増えてしまう。研究が進むにつれて、腸内フローラには多様性が重要で、それが十分な短鎖脂肪酸を作り、健康を維持することがわかってきました」(同)

 多様性が重要、言い換えると、ある特定の腸内細菌の“ひとり勝ち”が良くないということ。行き着くところは偏りのない食事ということになるが、ここで日本人ならではの腸の特徴を知ると、その理解が進む。

 福田氏によると、乳糖を分解できないからこそ、日本人は欧米人と比べて、健康に寄与するビフィズス菌が腸内に多いというのだ。

「乳糖を分解できないと、栄養素を吸収する小腸を通り越し、大腸まで届く。乳糖はビフィズス菌の餌になるため、日本人の腸内にはビフィズス菌が増えやすい。そのように菌と共生しているのは人だけではありません。例えばカメムシの中で、殺虫剤をまいても効かない(死なない)タイプがいました。調べるとおなかの中に農薬の成分を分解する菌がいたのです。つまり菌と共生関係にあることで、宿主では得られない機能を獲得できるのです」

 コロナ禍より前から、国内では抗菌・殺菌ブームで、近年の子供たちの腸内細菌の種類や量が減少傾向にあるとか。後藤医師は子供たちの将来を憂慮する。

「人は皮膚にいる常在菌なども含め、いろいろな菌を体内に入れることで免疫を獲得していきます。子供の頃に菌を排除しすぎてしまうと、免疫力が下がり、将来的に病気に感染しやすくなります。脳腸相関の観点からはキレやすい子や、発達障害の増加にもつながっていきます」

 菌を排除するのでなく、良い菌を選んで取り入れて、体内で共存させる。腸の中の有用な菌を増やす、元気にする生活を送れば、コロナも恐るるに足らず。どんな時代も生き残れる健康体を手にできるかもしれない。

ジャーナリスト 笹井恵理子

笹井恵理子(ささいえりこ)
ジャーナリスト。1978年生まれ。「サンデー毎日」の記者を経て、フリーに。医療や衣食住の生活分野を中心に執筆活動を続ける。著書に『救急車が来なくなる日』『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』など。

週刊新潮 2020年11月5日号掲載

特集「コロナ×インフルに克つ『第二の脳』腸から生命力アップ」より

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