「ボクは共産党の捕虜」中国人留学生の現実 日本が中国から知財を守るには

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“競争”ではなく“戦争”

 実際に摘発された事件も数えるほどしかない。

「07年、経産省はヤマハ発動機に対して無人ヘリコプターの輸出を9カ月間禁止する行政処分を下しました。軍事転用できる無人ヘリを、国に届けず人民解放軍と関係する中国企業に輸出したとして刑事告発されましたが、会社として罰金を支払うだけで済んでいます」(同)

 直近では、10月中旬に大阪府警が不正競争防止法違反の容疑で、積水化学の元社員を書類送検した。スマホのタッチパネルに使う電子材料の製造工程を、秘密裏に広東省の中国企業に提供。元社員は昨年5月に懲戒解雇となったが、その数カ月後にあの華為(ファーウェイ)に再就職していたというのだ。

「トランプ政権は、ファーウェイに半導体を供給しないよう規制をかけ、また個人情報が搾取されているとしてTikTokの運営会社に事業売却を命じました。もはや米中は経済という領域で事実上、“競争”ではなく“戦争”を行っている状態と言ってよいでしょう」

 そう話すのは、「経済安全保障」に詳しい多摩大学大学院教授の國分俊史氏だ。

「片や日本はといえば、ようやく『千人計画』への警戒感が高まったとはいえ、中国に優秀な科学技術者を引き抜かれ、日本の研究開発能力が落ち続けている。日本の寛容な姿勢を逆手にとって中国は自らの研究開発能力を向上させています。共産党が主導して研究成果を軍事に直結させる『軍民融合』の国ですから、研究者の流出が日本の安全保障上の危機にも繋がる深刻な問題なのです」

 我が国の課題は山積みで、

「これまでは無警戒に中国と繋がってきましたが、今後は『経済安全保障』という盾を持って付き合う必要がある。どの科学技術を吸い上げられたら問題なのか。それすら日本はマッピングできていません。対してアメリカは、AIやバイオテクノロジーなど守るべき14分野の先端技術を、輸出規制強化の対象として指定し、既に動いています。経済と安全保障を統合した政策構想が急がれています」

求められる科学者の倫理観

 国会で日本学術会議を巡る浅すぎる論戦をやっている場合ではあるまい。習近平国家主席の国賓来日にこだわる“超親中”の二階俊博幹事長が、菅義偉総理の後見役として幅を利かせるのも気懸りだ。

 来年度から警視庁は公安部の外事警察を再編し、対中国に特化した部署を新設。外務省は留学生のビザ審査の強化、文科省などは研究者が外国から資金提供を受けた際の報告義務化を検討している。「千人計画」をはじめとする中国からの魔の手を防ぐニッポンの取り組みは動き始めたばかりだが、同時に求められるのは、科学者たちの倫理観である。

 最後に、ノーベル物理学賞を受賞した朝永振一郎氏が、著書『科学者の社会的責任』に記した戒めを紹介して結びとしたい。〈科学者の任務は法則の発見で終わらず、その善悪両方の影響を人々に知らせ誤った使われ方を防ぐことに努めなければならない〉――。

週刊新潮 2020年11月12日号掲載

特集「日本の科学技術を盗む『中国千人計画』最終回」より

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