日本の「人口あたり論文数」が先進国で最下位に 研究者が中国に向かう背景とは

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「どんどん行けばいい」

「国立大学の法人化は失敗でした。若手の研究者を雇う余裕がなくなり、日本の科学技術のレベルが低下したのは事実です」

 とうなだれるのは、東大総長から政界に転じ、自民党所属の参院議員として小渕政権下で文部大臣を務めた有馬朗人氏(90)である。

「バブル崩壊後、行革の一環で公務員を削減する動きの中で、国立大学の法人化は、私が文部大臣を務めていた1999年に実質的に決まりました。大臣の諮問委員会で方向性が決定し骨子ができたのです。法人化に向けては自民党で委員会が作られ、私は委員長である麻生太郎さん(現・財務相)をサポートしていたんですが、法案には付帯決議として“必要な運営費交付金を確保する”旨を盛り込んだ。ところが、蓋を開けたらビックリ仰天。毎年、交付金が減らされていったわけです。昨年、麻生さんに直接文句を言ったところ、ニヤッと笑っただけでしたが……」

 今や日本の大学レベルが中国に抜かれてしまったことについて尋ねると、有馬氏はこう言い放つ始末なのだ。

「私は81年以降、毎年のように中国へと足を運んでいます。日本でいえば東工大にあたる上海交通大学の名誉教授でもある。向こうでは、基礎物理学の原子核構造を研究して論文を書いている。100本くらい私の名前が載っていますよ」

 まさに中国の思う壺ではないかと問うたところ、

「私は中国へどんどん行けばいい、大いにやれという考え方ですよ。中国の科学研究が発展しているのなら、日本人やアメリカ人が出向き、その知識や経験を持って帰ってくればいいと思う。『千人計画』だって、私に時間があれば行ってやろうという気持ちですよ。もちろん、AIや宇宙の研究などは軍事に結びつく危険がある。軍事研究に該当するのであれば私は協力しないという態度を、きちんと表明した上での話ですが」

 日本は「遣唐使の時代」に立ち返れと言わんばかりなのだが、中国への無警戒さには只々呆れるばかり。有馬氏は何処ぞの国のために“大学革命”を推し進めていったのではあるまいか。疑いたくもなる。

 核融合の専門家で、さる旧帝大の名誉教授である男性はこう嘆く。

「原爆を作った一人であるオッペンハイマーが理論物理学者だったように、核とは何かということに非常に詳しい人であったわけです。たとえば原発の使用済み核燃料に含まれるプルトニウムは原爆の原料に使われますからね。いかに効率よく原子炉を動かすかを研究すれば、プルトニウムを合理的に製造する方法に転用できてしまう。特に中国は、どこの大学でも軍事研究が当たり前の上に、民主主義の国ではないことに日本の科学者は無自覚なのでは」

 お花畑で暮らす研究者たちは、かの国にとってみれば格好の餌食だ。

2020年11月5日号掲載

特集「日本の科学技術を盗む『中国千人計画』第3弾」より

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